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再会
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佐伯は帰路の途中、前島からメールを貰い、真白が入院しているという病院へそのまま直行しようと、車を走らせていた。
『落ちつけよ、佐伯。命に別条はないからな。極度の疲労と軽い栄養失調、それと後頭部打撲と切創だそうだ』
病院に着き、知らせられていた病室へ向かう。中に入ると真尋と真帆が顔色をなくした真白の傍に付いていた。二人とも佐伯を見て一瞬驚いたように大きな瞳を更に大きくして佐伯を見、会釈をした。佐伯も軽く会釈を返すと、そのままベッドに横たわる真白に向かった。左手首には点滴をしていた。頭には包帯が巻かれて、顔色は蒼白だった。
「…あの…わざわざ…すみません」
真尋が口を開く。チラリと真尋を見ると、目を逸らして大きな体を小さく縮こませた。
ああ、この包帯は、お前の仕業かよ。
と佐伯は真尋を睨んだ。真帆は目を赤らめていた。たぶん泣いていたのだろう。昨日から泣いていたのか、瞼が腫れていて以前見た元気な真帆ではなかった。真白に視線を戻すと、真白の瞼が細かく震え、あの大きな瞳がゆっくりと見えてきた。
「真白」
「兄さん!」
「お兄ちゃん!」
皆が真白を見て、真白を呼ぶ。真白はぼんやりと三人の顔を見た。しばらく眺めていると、ふわりと笑う。
「…さえきさん? まひろも、まほも…どうしたの?」
真白がまだ意識がしっかりしていないような、少し舌っ足らずな感じで掠れた声で話しかけた。すると、真尋も真帆もボロボロと泣き始め、そして真尋は真白に謝罪を始める。
「ご、ごめ…ごめん…兄さん…!ごめんなさい…!」
「お兄ちゃん! 良かった…! 気付いて良かった…うぅ…」
「? 大丈夫、大丈夫だよ…二人とももう泣かないで…」
真白はゆっくりとそう言い、また微笑む。佐伯はそっと真白の頬を撫でた。それに反応して、真白はそっと佐伯に視線を合わせた。少し困ったように佐伯を見る真白の顔色は相変わらず色がない。血液がなくなってしまったのかと思うほど、触れた頬も冷たかった。二週間振りの真白は少し窶れていた。真白もだんだんと意識が戻ってきて、ここがどこなのか理解し、そして佐伯に心配をかけた事などを思いだした。
「…佐伯さん、すみませんでした。心配、かけちゃいましたよね…」
「そういう事言うんじゃないよ、真白。……ちゃんと話をしなきゃね」
真白にとって悪夢の食事会の翌日夕方、父親の秘書の滑川が佐伯に連絡を寄こしてきたのだった。真白は滑川に良い印象を受けなかったが、単にこの男は人相と愛想が良くないだけだった。滑川としては自分が真白の内偵をして、その内容を社長に報告したので、真白達に後ろめたい気持ちがあった。だから佐伯に知らせたのだった。
『七生様、お父様が水上様とお会いになって…何かおっしゃられたようです』
「親父が?」
『水上様のご様子から察するに…お父様の悪い所が出たのではないかと危惧致しております』
「…なるほど。どうもありがとう」
父親の悪い所、それは佐伯家では知らない者はいない話だった。佐伯の父親は酷い差別主義者だった。それを一時期仕事にも出していたのだが、世間の目はそれを許さない。そして佐伯の祖父、会長は、そんな男には会社を継がせる事は出来ないと言い放った。それが功を奏したのか、佐伯の父親の差別主義はなくなったように見えていたのだが、どうやら健在だったらしい。佐伯と真白の事をなぜ調べようと思ったのかは知らないが、真白の母方の祖父がフランス人だということを知ったのだろう。そして何より、真白は男だ。自分の息子が男と付き合ってるなんて、我慢できなかったのだろう。
「ごめんね、真白。親父が余計な事を言ったみたいだね…」
真白は大きな目を見開いた。はい、そうです、なんてとてもじゃないが言えない。真白は眉間に皺を寄せ、ますます困ったような表情を浮かべた。そんな二人の様子を真帆は佐伯と真白を交互に見て、何かを思いついた風に真尋の腕を掴んだ。
「真尋お兄、ちょっと、外、出よう!」
「へ? なんでだよ?」
「いいから! ほら! 早く!」
そういうと、真帆はズルズルと真尋を引き摺って、病室を出ていく。出ていく寸前に「ごゆっくり~」と手を振っていた。真尋はなんだか訳が分からない様子だった。そんな二人を見て真白は大丈夫だろうかと心配したが、今は佐伯と話がしたい。何でも良かった。佐伯と一緒にいたい。それだけだ。
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