アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
海上都市
-
「どうぞ、リラックスしてください。少しお話を聞きたいだけですから。」
「お気使いありがとうございます。それで、お聞きになりたいこととはどのようなことでしょうか?」
真白は朝から、国家マモン対策本部のある建物へ来ていた。ここは舞浜近くの海上に作られた海上都市、新舞浜フロンティア市だ。出来たばかりのモジュール都市だった。多くのモジュールが複合して出来ている海上建造物で海上都市と呼んではいるが、人が住める地区は海の下の方が多い。上は公園やヘリポート、駐車場などになっている。真白のいる場所も海の下にある着息の一つだ。
「マモンの襲撃で何か気付いた事はなかったですか? どんな小さな事でも構いません。」
「…報告書に書いた事以外ということですよね…? 特に思い当たる節はないのですが…」
「救助された後のことも含めて頂きたいのです。撤収するまでの間に、何か不審な物、気になった事です。勘違いかも、と思っている事でもお教えいただきたいのです」
そう言われ、真白は一つだけ思いだした。真白が怪我の手当を受けていた時のことだった。あれは見間違いか何かだと思って報告書には書いてない。先程から真白と話している人物は国家マモン対策室の鮫島 一誠(さめじま いっせい)上級捜査官。真白と同じ線引き屋でもある。
「? 水上さん。何かあるんですね? どうぞ遠慮なさらずにおっしゃってください」
「…本当に見間違いかもしれないんです…それに大したことではないですし…」
「構いません。それを精査し調査するのが私の仕事ですよ」
鮫島はにっこりと真白に微笑む。鮫島は佐伯と同年代ぐらいで、そうとうな切れ者だと佐伯から聞いていた。わざわざ今回のG型マモン襲撃事件の担当をやっていると聞いて、佐伯は首を捻っていた。
『この事件、何か別の意図でもあるのかな…?』
『別の意図?』
『…まあ、真白は心配しなくて大丈夫だよ。新舞浜フロンティアへ行った事がないって言ってたし…観光がてらちょっと話ししてくるぐらいの気分で行っておいで』
『そうですね。…じゃあ、何かお土産買ってきます』
朝、そんな話をして佐伯と別れた。真白は確かに不安で心配し緊張していた。佐伯の夜の誘いを初めて断った。セックスでダルい体を引きずって、捜査官の尋問を受けたくなかったからだ。佐伯も真白の気持ちを分かってくれて、昨日の夜は真白をしっかりと抱きしめて眠った。真白はそれだけで気持ちが安らぎ安定したのだった。
「怪我の手当をしていた時…旧区役所の屋上で、何かが光ったような気がしたんです」
「…何かが光った?」
「はい…ただ…一瞬の事ですし、しっかり見た訳ではないので…見間違いかもしれないです…」
「そうですか。他に何か気になった事はないですか?」
「…すみません」
「ああ、いえ。尋問しているわけではないのです。…今日はありがとうございました。わざわざお越しいただきまして。助かりました。もしお時間があるようでしたら、フロンティアを観光なさってはいかがですか? 若い方が好きそうな施設がたくさんありますよ」
鮫島はそういうと自分の端末から真白に何かデータを送信した。メッセージタイプのアプリに届いた鮫島のアバターは可愛い鮫のキャラだった。真白は鮫島のアバターを見て少し笑った。鮫島もそんな真白を見て笑う。データは鮫島が今言ったフロンティア内部と商業施設のパンフレットで、観光用に作られた物だ。
「すごい広いですね…」
「ええ、海下だけでも直径が3000メートルですしね。船からご覧になられたと思いますが、メインタワーの高さも1500メートルありますよ。このモジュールだけでも10万人が住む予定ですしね」
「本当にすごい…」
「…水上さんはどうして民間へご就職を?」
「え?」
「不躾な質問ですみません。ただ貴方の様な若くて優秀な方は公務員として働けば、かなりの高待遇でしたよね? 不思議に思いまして…」
「優秀なんて言われるような事はなにも…。でも確かに公務員は待遇が良かったですね…けれど色々と考えて…今の会社に決めました」
「今からでも、遅くはありませんよ?」
「……は?」
真白は言葉の意味が一瞬理解出来ず鮫島を凝視した。鮫島はテーブルに両肘を付き微笑みながら真白を見つめている。真白は今鮫島に言われた事を心中で復唱する。これは、ヘッドハンティング的な…?いやいや、冗談でしょ…そう思い、真白はにっこりと微笑んだ。
「御冗談を…」
「おや、冗談のつもりはありませんよ。私は冗談を言うのが苦手でして…」
「…えっと、その…ありがとうございます。私の何が良いのか分かりませんが、そんな風に買っていただき光栄です。ただ、私は今の会社を辞める気はありません。すみません」
「考える余地もありませんか…」
「すみません…」
「いいえ、困らせるつもりはありません。ただ、私どもは、優秀な人材をいつでも求めています。もし、水上さんの気が変わりましたら、いつでも私に連絡を。お待ちしてますよ」
「ありがとうございます…」
鮫島と別れ、真白はパンフレットを頼りにみんなへのお土産を買う店を探した。目当ての物を購入し、帰る為に船着き場へ向かう。真白は帰りの船を待つ間、佐伯にメールをした。時間的にはまだ社に戻って仕事が出来る時間だし、これなら簡単に報告もできるだろう。同僚たちも話を聞きたがっていた。メールを送信した直後に東京に帰る船が到着したというアナウンスが入った。真白は船に乗り込み、デッキへ出て、巨大な海上都市を眺めながら一つ溜息を吐いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
60 / 255