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悪意の手
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佐伯は今日も真白と同じ顔を持った人型マモンの出現した問題のモジュールに来ていた。丁度人型マモンが歩いていた場所まで同じように歩いて、監視カメラを仰ぎ見た。佐伯の警護に数名の保安部の人間が辺りを警戒しながら立っている。
工事は通常通り行われていた。ただ警備体制が大きく変わった。今までは佐伯の会社の保安部門が警備を行っていたが、それに加わって国家マモン対策本部が警備をする人間を大量に送ってきた。
「こんにちは。佐伯 七生さん」
「おや、鮫島さん…」
佐伯に向かってゆっくりと鮫島は笑顔で近づいて握手を求めてきた。佐伯もその握手に応える。笑顔の下の鮫島の真意は読みとれない。
切れ者ね…と佐伯は鮫島を見て微笑む。
そして、警護している保安部の人間に少し距離を取るように指示を出した。同じく、鮫島も自分の警護する人間に距離を取らせた。歩きながら小声で二人は話を始めた。
「先日は御社の水上さんに、色々とご協力いただきまして、ありがとうございました」
「お役に立てたのであれば良かったです。まだ入社したばかりの新人ですので、ご迷惑お掛けしてなければいいと思ってまして。」
「迷惑だなんてとんでもない。とても賢くて素直で、良い青年ですね」
「…いえ、まだ未熟な所が多い」
モジュールは民間企業と国の事業で税金も投入されている。マモンのせいで土地を追われた人達に新しい開拓地として、現在5個目のモジュール建設に入っている。国の事業である以上、マモンが出たとなれば騒ぎになる。まだ確かなことは分からない。この事は表には出ていなかった。
「ところで…水上くんは、このモジュールにいらしたことは?」
「私の知る限りでは、ありませんね」
「…そうですか」
「あの件を、お調べですか?」
「……隠してもしかたないですね」
「あの子は違いますよ」
「ええ。そうみたいですね。心理状態、体調をモニターしてましたが、変わった反応はありませんでしたし。……意識的には、ですけどね」
佐伯はその言葉に少しだけ片方の眉を上げる。この男はやはり何か真白を疑っているようだ。鮫島は佐伯とは目を合わさずに真っ直ぐゆっくり歩く。佐伯も並んで歩き出す。工事の音が鳴り響く中、二人はギリギリ聞こえるぐらいの距離を保ちながら、現場の出口へと向かっていく。分かってはいるが佐伯は鮫島に先ほどの会話の真意を聞く。
「…何がおっしゃりたいのですか?」
「無意識の中での行動であったら…どうでしょうね?」
「…なるほど。旧役所の天井が崩落した時にも現場にいたので、疑ってらっしゃる?」
「可能性の話をしているんですよ。どうにもコレといったものが出てこないので。一つずつ精査しているだけです」
「…なるほど。…鮫島さんは、アレを、どう捉えていますか?」
「どう?とは?」
「自然に進化したものか、それとも…」
「この話は立ち話でする事もないでしょう」
鮫島はこの話を打ち切った。六彌の言っていたのらりくらりどころではなく、ハッキリと打ち切った鮫島の態度に、佐伯は当たりを引いた気がした。この件はどうやら人為的な要素が含まれているように感じた。それを鮫島がどこまで知っているかは分からない。マモンは細胞が分裂して意志を持ち始めた。急激な変化だ。しかし、体自体を人間に模すのは難しい。中を開けて見なければ分からないが、真白に似たマモンは人間の構造を持っているのか怪しい所だ。だが、もし途中で人間の手によって何かを作りかえられていたら…
佐伯は空を仰いだ。
真白は関係ない。あの子は純粋で真面目で傷つきやすい優しい子。そして愛しい人。
相手が誰であろうとも、真白に伸びる悪意の手を佐伯は全力で払ってやる。そう決意した。
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