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7月31日の個室
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「お前は何なんだ」
「え?」
俺が首をかしげると、窪田はスマホを俺の目の前につきつけた。
「さっきは変な顔でよそよそしくしたり、そうかと思えばすぐに気持ちわるいメールをたくさん送りつけて。お前は何がしたいんだ」
「へ、変な顔ってなんだよ。それに俺の愛を気持ちわるいとか言うなよな」
「………」
窪田はあからさまなため息をついて、スマホをポケットにしまった。そして厳しい口調で続けた。
「今夜は無理だ。今ここで、3分以内に事情を説明しろ」
「そんなにトゲトゲするなって」
「時間がない」
「そんなに知りたい?」
「うるさい、早くしろ」
考えようによっては、俺の態度なんて些細なものだと思うのだが、窪田は受け流す気がないようだ。
以前なら、わざわざ俺を追いかけてきてまで問い詰めたりはしなかっただろう。
ポジティブに考えると、それだけ俺の存在が窪田にとって大きくなっているということだ。
でも、たぶん理由は他にある。
最近の窪田は、少し余裕が無いから。
心配してたところなんだけどな。
このままはぐらかしても窪田は納得しないだろう。
「た、ち、ば、な」
「……うぐぅ」
窪田は俺に一切触れない。
その代わり、ものすごい眼力で俺を追い詰める。
その辺の女子供なら恐怖のあまり泣きだしているだろう。
顔面に穴が開きそうな気がしてきたので、俺は両手を上げて降参ポーズを取り、正直に話すことにした。
「噂が流れてるんだよ。俺とお前の」
「…………」
窪田は無表情で俺を見下ろしている。
何も言わず、微動だにせず、ただ俺の顔を見つめている。
俺の心境を読み取ろうとしているらしいが、窪田自身は何を考えているのか、さすがの俺にもさっぱりわからなかった。
俺はもう一度言った。
「俺たちの事が社内で噂になってる」
「……」
反応の薄い窪田が心配で、俺は窪田の両手を握った。
ひんやりと冷たくて、でも緊張しているのか少し汗ばんでいる。
「あまり、よくないだろ?お前は経営企画に入って大事な時だから、心配させないよう噂のことは隠したかったんだ。それと同時に、しばらくは会社の中では距離を置いた方がいいとも思ったんだよ。ま、両立させるなんて難しいわな。俺もちょっと混乱してるみたいだ。ははっ」
「…………」
窪田の細長い指に指を絡めて、そのまま口元に寄せた。白い手の甲に唇を押し付け顔を上げると、窪田は自分の手の甲を見つめたまま、キュッと唇を噛んでいた。
「…窪田?」
「……………………それだけか」
「ん?」
「それだけなのかと聞いている」
「え?…じゃあ」
俺は窪田の首に手を伸ばして、顔を引き寄せようとした。
「そうじゃない!」
キスしようとする俺の動作に、窪田が慌てて俺の手を振りほどいた。
「オイオイ、そんなに嫌がると俺がヘコむぞ?」
「うるさい、話はそれだけなのかと聞いているんだッ」
「それだけ?うーん…まあ、そうだけど」
俺のセリフを疑って、窪田は俺の表情を注意深く確認している。
俺は真剣な窪田を眺めながら、やっぱり可愛いなぁ、俺にとっては表情豊かに見えるんだよな、なんて思っていた。
やがて俺に裏表がないことに納得した窪田は、長いため息をついて言った。
「そんなくだらないことだったのか」
「へ?」
くだらないといえばそうなのだが。偏見というのは恐いものだし、社内恋愛だし、なかなか目立つスキャンダルだ。
意外と脆い窪田のメンタルでは、こういう噂は荷が重いはずなのだが。
「もしかして、窪田は噂が流れてること、知ってたのか?」
恐る恐る聞くと、窪田は頷いた。
「この手の噂には慣れている。俺は経理部の佐脇部長とも噂になっていたからな」
「うぐぅ!」
サラリと言ってのける窪田に、俺は思わず呻いた。
その様子を見た窪田は、迷いながらも俺の肩に手を乗せて言った。
「お前は慣れていないかもしれないが、放っておけばいい。みんな噂がしたいだけで、信じる奴なんていないだろう」
窪田は俺よりもずっと冷静に受け止めているようだ。
ひたすらうなっていると、窪田は俺に「気にするな」と言って、一人でトイレを出て行ってしまった。
なんで佐脇部長と噂になっていたのか、まだ話は終わっていないのだが…。
窪田は大丈夫そうなのはわかった。
でも俺がスッキリしないぞ。
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