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8月21日の間取り図
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「やっぱ、譲れないポイントは絞った方がいいよな〜」
からあげ定食のトレイを押しのけて住宅情報誌を開きはじめると、隣に座る山田がカレーライスを頬張りながら覗き込んできた。
「引っ越すんですか?」
大きな曇りガラスがはめ込まれた窓から、明るい日差しがたっぷりと注がれる。
食器の音と、社員の会話。
今日の昼休みも社員食堂は賑わっていた。
窪田は上司に連れられて、他部署の偉い方と窓辺の席で飯を食っていた。
だから俺は一緒に社員食堂に来た山田と2人で飯を食って、あとは気になって仕方がなかった情報誌を広げていたわけだ。
「まだ先なんだけどさ。今住んでるとこが、学生時代から借りてて狭くて古いからな」
「でも便利な場所でしたよね?」
「まぁな〜。だけど会社まで乗り継ぎがなければ、郊外でも便利だし、いいトコあるんだよ」
「でもそのページ、単身者向けじゃないですよね」
「おう、広いと優雅だろー?」
俺が求めるのは広さと綺麗さ。
ベランダは南向きで、バスタブは俺と窪田が並んで浸かれるくらい大きめが良くて…。
「橘さん、顔が気持ち悪くなってます」
「…へ?」
大きなバスタブで俺と窪田がキャッキャウフフ☆しているのを想像していたら、山田が冷ややかな目で俺を見ていた。
「ロボ田さんに迷惑かけないでくださいよ?」
「なっ…なんだよ迷惑って」
「妄想が大暴走、なんてしてないですよね⁉︎」
山田はハッキリとは言わない。
俺も正式には言っていない。
もともと俺が窪田を追いかけ回しているのは山田も知っているが、俺たちがその後どうなったのかは、わざわざ報告するのもなんだか変な気がして、なんとなくあやふやなままだった。
どこまで感づいているのか、ちょっと知りたい。
「……」
「……」
「……山田」
「はい」
「やっぱさぁ、プライベートを大事にするなら、あえて会社から離れたトコに住む方が良いよな?」
俺の問いに、山田はジッと俺の表情をうかがった。
そして俺が反応をうかがっているのに気づいたのか、少し考えてからズバリと答えた。
「…そうですね。変なトコ選んでロボ田さんがミジメな暮らしをしたり、まして橘さんみたいな変態と暮らしてるなんて噂が立ったら目も当てられません」
「へぁ⁈そ、それってお前、やっぱりきづいて…⁈」
「くれぐれも、自己中心的な考えで部屋を選ばないでくださいね?」
山田は真顔だ。
やっぱり付き合いだしたことに気づいている(山田には言わないだけで隠そうとも思ってなかったのだが)。
そして毒を吐きながらも、俺が窪田と一緒に暮らそうとしていることも含めて、俺たちの事を受け入れている…よな?
「山田ぁ〜」
「多少会社から離れていても、ロボ田さんに相応しい場所を選ぶべきです。間取りだけで言ったら…ココとか」
「お前が親身になってくれるとは…」
俺は温かい気持ちになりながら、山田が指差す間取り図を見た。
そこはリビングが16畳ある1LDKだった。
立地の良さと築年数の浅さから、家賃は高い。ベランダは南向きで、2畳のウォークインクローゼット、床暖房に浴室乾燥など、設備もじゅうぶん整っている。
「さすがの俺も、窪田のことを考えると2LDKかなと思っていたんだが…」
1LDKで二人暮らしということは、寝室が同じということだ。
ああ見えてデリケートな窪田にはストレスだろう。
一緒に寝ることが多いにしても、いざという時に窪田がひとりになれる部屋は必要だ。
でも。
毎晩同じ部屋の同じベッドで窪田と寝るなんて夢のようだ。
しかも第三者の山田がそれを推奨するなんて。
「寝室、8畳だもんな。ダブルベッド入れて2人で眠れば余裕だな!」
家賃面を考えても、1LDKはとてつもなく魅力的だ。
すげぇ。
いっそ、賃貸じゃなくてマンション購入しちゃおうか⁈
「橘さん、あなたバカですか」
突然、山田が俺の上唇をつまんで引っ張った。
「いてててて」
「ここはロボ田さんだけの寝室です」
つまんでいた指を思い切りひっぱられ、鼻の下がヒリヒリする。
「痛いな!じゃあ俺はどこで寝るんだよ」
「ロボ田さんがより良い環境で生活するために、橘さんはここで寝起きしてください」
山田は間取り図をトントンと突いた。そこは、二畳あるが、部屋ではない。
「ちょっ、おまっ…!ウォークインクローゼットじゃねぇか!」
「ロボ田さんのためです。ロボ田さんが幸せならウォークインクローゼットに住んでもいいじゃないですか」
「意味わかんねー!だったらリビングが狭くていいから2LDKにするぞ」
「だめです!月1で飲み会するんで、リビングは広めがいいです」
「おーまーえー」
山田は俺たちのことを受け入れてくれている。
がしかし、窪田至上主義で、さらに自分も飲み会をする気でいるとは。
誰にも邪魔されない超郊外に引っ越してやろうか⁈
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