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10月7日のside窪田くんの攻防
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「おはようございます」
……。
俺のあいさつは誰に受け止められることもなく、経営企画部の部屋の中を漂い消える。
出勤しても、相変わらず誰もが俺を無視している。
春日さんがいる時だけ別人のように挨拶を返すのだが、下半期がスタートしてから、春日さんは物流センターの方にかかりっきりで、月初以外は午後まで本社に戻らなくなっていた。
しかし慣れてしまえば、挨拶なんてどうでもいい。仕事の邪魔さえされなければいいのだ。
俺は平然として自分の机に近づき、すぐに異変に気づいた。
「……………………」
まただ。
春日さんが午前に来ない日は、嫌がらせがダイレクトになる。
今朝の俺の机の上には白米の山が2つ、こんもりと並んでいた。そして双方のてっぺんには、梅干しがひとつずつ乗っている。
つまりは、おっぱいだ。
俺の机に白米でできた女のおっぱいが乗っている。
「……………………………………チッ」
あまりにもくだらない嫌がらせに怒りをこらえていると、背後に人の気配がした。
誰が来たかなんて、振り返らなくても分かりきっている。
「おいおいロボ田ぁ。お前欲求不満かー?会社の机に何やってるんだよ。こんなことして恥ずかしくねぇの?」
俺の後頭部に向かって、斜め上から嫌味な声が降り注ぐ。もちろん夏川だ。
「何か言えよ」
「………………………………………………………………………………………………………………」
欲求不満はお前だろう。お前こそ何やってるんだ、いい歳して恥ずかしくないのか?こっちは欲求不満どころか、定期的に橘に搾り取られてカツカツだ。そしてお前ほど暇でもないんだ。俺がどんな思いで白米を処理して、それをお前に分からせる為にどれだけ知恵を絞って苦労しているかなんて、これっぽっちも理解しないんだな。ど低脳が。お前は早く仕事を始めろ。そしてくたばれ。
「……おいロボ田」
「…ハッ」
夏川のおかげで、俺は嫌味ったらしく鼻で笑えるようになった。トイレの鏡の前でやってみたら、ちゃんと口元が笑っていたのだ。目は笑えていなかったが、これをやると夏川は相当イラつくようだ。
「お前、マジムカつく!お前がいなかったら、俺が春日さんと物流センターを…」
「うるさいぞ夏川!朝礼だ」
冬部さんが椅子を引きながら機嫌悪そうに言うと、自分の机でうつむいて作業をしていた秋元さんも立ち上がる。
「くそっ!」
夏川は俺の椅子に蹴りを入れると、ブツブツ言いながら席に戻っていった。
俺もひとまずは机の白米おっぱいにイライラしながら4人だけの朝礼に参加する。
夏川め、学習しろ…。
それから業務が始まってしばらくすると、経営企画部の部屋に悲鳴がこだました。
「うわぁぁああ!なんだよ!なんなんだよ!!!」
夏川が右手を振り払いながら立ち上がった。どうやら引き出しを開けようとして、水がかかったらしい。
隣の秋元さんにも飛沫がかかり、眉間にシワが寄っている。そして夏川の机を見て、秋元さんはつり上がった糸目を珍しく見開いている。
大きな舌打ちをして、冬部さんも立ち上がった。
「騒ぐな。仕事の邪魔をするなら出て行け…って、何やってんだお前!」
夏川の机の引き出しの中には、たっぷりと水が入っていた。苔むした石と、水草。そしてアメリカザリガニが3匹。
すべて、俺が昨日の夜セッティングしたのだ。
冬部さんが夏川の胸ぐらを掴んだ。
「お前、ここは小学校じゃねぇんだぞ!飼育係か?お前の仕事は飼育係なのか⁈」
「ちっ、ちがっ…!俺じゃないです!机の鍵、ちゃんと管理してたのに…なんでだ⁈」
「鍵を管理してたらなおさらお前が自分でやったんだろうが!」
冬部さんが怒ると、語尾が巻き舌のようになってヤクザ映画みたいに怖くなる。
ざまあみろ、夏川。
こんな机の鍵くらい、俺なら針金一本で簡単に開けられる。
俺は給湯室で見つけたラップで、さっきの白飯を保管していた。2つの塊を持って夏川に近づくと、
夏川は忌々しげに俺を睨んでいる。
俺はラップ越しに伝わるご飯の感触に吐き気がしていた。でも、あと少しだから我慢だ。
白飯の塊2つを夏川に差し出して、俺は言った。
「夏川さん、よかったらコレ、あなたの〝お友達〟のエサにしてあげてください…………ハッ」
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