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10月12日のナイトフィーバー
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優勝祝いをしたいと言う俺と、まったく興味のない窪田との折衷案は、俺が夕飯を作るということで落ち着いた。
海老のクリームパスタに、生ハムサラダに、白ワイン。
俺が窪田に作るメシはいつもパスタだ。
夜なら米も食べる気になれるらしいが、なんとなく米を避けてパスタを選んでしまう。
ペロリと平らげて2人で食器を洗い、残ったワインをグラスに注いで、俺たちは向かいあって座った。
窪田は正座して、まっすぐ俺を見ている。
「橘」
「お、おう」
「昨日は何も言わず、急に帰ってすまなかった。少し…いや、かなり動揺していたんだ。幼稚な行いだったと今は反省している」
「そっか…」
嫌に堅苦しい言葉に、俺は頷いたり首を振るしかなかった。
何しろ、こうやって何かが起こった時、たいてい窪田は逃げる。
今回も急にいなくなったりしたけれど、今こうやって自主的に話しだしたのだから、ただ事じゃない。
だから俺は窪田を刺激せずに耳を傾けることにした。
「それで橘が聞きたいこととは、昨日なぜ俺が急に帰って音信不通になったのかということだったな」
窪田はそう言うと俺のベッドの下に手を伸ばし、住宅情報誌を取り出した。
「……んん?」
話が読めず、俺は情報誌を眺めたまま、ぽりぽりと頭を掻いた。
「橘。俺はこう見えても、お前が幸せでいて欲しいと願って…いた」
「そうか…って、過去形?」
「ああ。もう過去の話だ。今は微塵も思わない」
な、なんでた⁈
窪田は無表情で俺を見つめている。
本当に無表情だ。感情を押し殺して、何も心の内を見せてはくれない。
「窪田、よくわからないんだが?」
「いいから聞け」
「…はい」
窪田は情報誌をペラペラとめくり、俺がチェックしていた地域のページを広げて見せた。
「俺は勝手に情報誌を見て、このページに気づいてしまった。プライベートなメモ書きを読んでしまうのはマナー違反だと自覚している。それは謝る。だが、俺はこのページを見て、とても混乱した」
そう言われて、俺は情報誌を眺めた。
俺のメモと、後輩の山田が勝手に書いた冷やかしの落書き。
「窪田?」
「…………………女だな」
「はい?」
「お前は、女と暮らす気でいるな?」
「…………………………は、はいぃい⁈」
思わず声が裏返った。
意味がわからない。
しかし、窪田はひどく真面目に俺を見据えている。
「お前は人あたりも良く、仕事だってできる。面倒見がいいし、タバコもギャンブルもしないし、何より子供が好きだ」
「お、おう?」
「だから、お前が女と結婚して子供を作りたいと思うのはいいことだと思う。お前の遺伝子は多少変態だが、優秀であることには間違いないからな」
「けっ、結婚?子供⁈何をいってるんだ⁈俺は別に…」
「黙って聞け!」
窪田は俺に一喝すると、白ワインをグッと一口飲んで、気持ちを落ち着けた。
そして再び話し始める。
「情報誌を一緒に見ていた女が誰なのか、俺は知りたくないから絶対に言うな」
「いやだから、それは山…」
言いかけると、窪田がものすごい殺気で俺を睨んだ。
全部聞かないと訂正できないのか?
というか、今までこんなに会話の主導権を握られたことはないぞ。
どうした、窪田?!
「最初は、お前と暮らす相手が男か女かなんてどっちでもよかった。でも考えているうちに、男は嫌だと思った。…男なら、俺がいるからだ」
「……」
「でも女なら仕方がないと思った。俺とお前ではどう頑張っても子供は作れないが、女なら作れるからな。女には勝てない。お前が女に惚れて結婚すると言うのなら、俺は諦めるべきだと思った。…最初はな」
窪田はワインをジッと見つめ、最後の一口飲んで舌を滑らかにする。
「しかし、お前が秋元さんの子供達を可愛がっているのを見て気持ちが変わったんだ。この情報誌の書き込み通りに新婚になって、子供をもうけたとしたら。お前はきっといい父親になるし、お前の両親も喜ぶだろう。無愛想な男の俺よりもはるかに祝福されるはずだ」
「窪田…」
俺は泣きそうになっていた。
あの窪田が、こんなに真剣に俺の未来について語っているのが、嬉しくて切なくて。
まあ、内容は明後日の方向というか、とてつもない勘違いをしているのだが。
「…だけど、そんなのはくそくらえだ」
「⁈」
窪田は膝立ちになり、テーブル越しに俺の胸ぐらをつかんだ。
そして鼻がこすれ合うくらい間近に顔を寄せて、窪田は言った。
「お前の隣に俺がいないなら、お前の幸せなんかどうだっていい」
窪田の言葉に、俺の中は一気に沸騰した。
「窪田ァ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
夢中になって窪田の唇をキスで塞いだ。
思いっきりディープなやつだ。
これ以上窪田の告白を聞いていたら、俺は脳みそが溶けておかしくなってしまいそうだ。
窪田のそれはエゴの塊で、そんな気持ちで俺を求めてくれるのは、実は俺の理想であって。
「ンッ、たち…ば…な…」
「そんなに言うなら、今すぐ抱かせろ!」
「あっ…」
俺は窪田抱きしめ、すぐそばのベッドに押し倒した。
あの書き込みは女じゃなくて、山田のいたずらだ。
〝新婚向け〟と書いてあったのも、山田が俺と窪田を新婚夫婦に見立ててくれたからだ。
どうして、先にそれを窪田に訂正しないのかって?
そりゃ、決まってる。
今訂正したらダメだろ。
教えるのはニャンニャンしてからだ。
俺の股間がそうしろと訴えかけている。
窪田だって何か情熱的になってるし?
まあ、後だしのツケはけっこうなもので、ネタバレしたあとの窪田はブチ切れて、俺の部屋の木製テーブルを手刀で真っ二つに割ってしまった。
次、窪田を騙したら、俺が真っ二つになるらしい。
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