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10月14日のside窪田くん、頼る。
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今朝のやり取りはこうだ。
俺が警戒心たっぷりに出勤すると、机には何の異変もなかった。
拍子抜けして椅子に座ると、椅子が生暖かくなっていて、俺の愛用しているトラ猫クッションの中身が炊きたての白米にすり替わっていた。
尻の下でグニュリと潰れる白米の感触に、俺は気を失いかけた。しかしここで倒れてしまっては俺の負けだ。
気力を振り絞って、俺はブックスタンドの隙間に隠しておいたスイッチを押した。スイッチの配線は、夏川の机に繋がっている。
俺はそれを確認して、急いでトイレに駆け込み嘔吐した。
落ち着いてからトイレから戻ると、実にタイミングが良かった。ちょうど夏川が席について引き出しを開けたところだったのだ。
引き出しが開くと同時に〝ウゼェなお前〟という夏川の音声が部署内に響く。
「⁉︎」
夏川は驚いているし、秋元さんと冬部さんは何事かと夏川を見つめている。
そして夏川は確認するようにもう一度、恐る恐る引き出しを開閉した。
〝ウゼェなお前〟
再び聞こえた途端、冬部さんが立ち上がった。
「おい夏川ァ…。誰がウゼェんだ?アァ?」
「へっ?俺じゃないです!」
「テメェの声だろうがッ!!!!」
夏川は冬部さんに首根っこを掴まれ、廊下に連れ出されてしまった。
「………………というのが今朝の話だ。こんな調子で、俺は今、夏川と戦っている」
俺と夏川の日々の攻防戦を簡潔に語ると、橘は唐揚げ定食のトレイを前にして、複雑な表情で俺を見つめた。
「お前…予想以上にキツい環境で仕事してるんだな」
「別に。中学時代からずっと、俺の生活はこんなものだ。ただ、今の俺はやり返すようにしているが。………………おい、なぜ泣く?」
「か、から揚げに絞ったレモンが沁みただけだ!別に泣いてなんかっ…」
「?」
橘は鼻をすすりながら唐揚げにかじりついた。咀嚼しながらも、まだ涙を拭っている。
レモン、絞りすぎだろう。
それにしても、今日はツイている。
相談相手が橘しかいないと思っていた時に、運良く橘本人が本社で昼休憩をとっていたのだ。
俺はごぼう天うどんを一口すすり、続けた。
「今日の夏川はいつも通りだった。しかし昨日春日さんが顔を出した時は、説明した通りの様子だった。俺の行動の何が、あそこまで夏川を不快にしたんだ?」
「ん〜」
橘は顎に手を当てて唸り、渋い顔をした。
俺の説明では情報が足りないのだろうか。
「……やはり、わからないか」
俺は気づかぬうちに、夏川の弱点を突いていたはずなのに。
「わからないっつぅか、俺は夏川さんと話したことがないからなぁ。まぁなんて言うか、経営企画で春日さんはメチャクチャ慕われてるんだよな?だから、お前が春日さんと仕事してる姿が羨ましいんじゃないか?」
羨ましいの度合いはわからないけど…。とボソリと付け加え、橘は味噌汁の椀を手に取った。
「…確かに、俺と春日さんがセンター建て替えのチームに入ってから、嫌がらせが増したが…」
別に、一緒の仕事を担当しなくても春日さんとはほぼ毎日顔を合わせるし、夏川もじゅうぶん責任のある業務を請け負っている。
何がそこまで不満なんだ。
「まぁ、その辺の細かいところはともかく、その日はお前が何もしてないっていうなら、やっぱり原因は春日さんだろ。羨ましがられて、僻まれて、大変だな」
「俺より橘の方がが春日さんと一緒にいることが多いのにな」
その理屈なら、嫌がらせを受けるのは橘だろう。
そういうつもりで言ったのだが、橘は本気かわざとか、ニヤリと笑った。
「なんだよ窪田〜。お前は春日さんにヤキモチか?そんなに俺と仕事したい?」
「ふざけるな。誰がお前なんかとっ!」
「照れるなよ〜。…ま、夏川さんの件は下手に首をつっこまないことだ。いいな?」
そう言って、橘は俺の腿に手を乗せてきやがった。
「会社で俺に触るな」
「はいはい。手がすべっただけー」
そう言って、膝に乗っていた手が腿をゆっくり撫でようとする。俺は慌ててその手を振り払った。
「セクハラか!」
思わず大きな声で叫んでしまった。
すると橘はテーブルの下で俺の脚をつつき、言った。
「セクハラなんて言うなら、もう家でも触ってやらないぞ?」
「!!!!」
俺の顔は一気に赤くなった。
くそっ、調子に乗りやがって。
橘なんかに相談するんじゃなかった。
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