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10月16日のside窪田くん、提案を蹴られる
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別に、夏川の恋愛なんてどうでもいい。
それに春日さんには恋人がいる。
連れて行ってもらった酒の席で、春日さんが言っていた。結婚はまだだが長く続いているのだそうだ。
口ぶりからして、もちろん女性。春日さんはノーマルだ。
「ロボ田くん、そろそろ出よう」
「……」
春日さんは本当にわかっていない。
接待に俺を連れて行く代償は、すべて俺に降りかかっている。
今日は冬部さんも他部署の社員と飲むらしく、先にバタバタと部屋を出て行った。
秋元さんと夏川も残業というほどの仕事は無いらしく、片付けを始めている。
「……あの」
一応、会社を出る準備は済ませたが、俺は春日さんに経営企画部が円満になる案を申し出た。
「俺は体調が悪いので、夏川さんに代わっていただきたいのですが」
素晴らしい提案だ。
しかし、春日さんの表情が一気に曇った。
「ロボ田くん、どこが悪いの」
「……風邪気味で、熱が」
「熱があるんだ?どれどれ」
俺の適当な申告に、春日さんが手のひらを俺の額に押し当ててきた。
しまった!
これは良くない…。
もしも、だ。
俺の目の前で橘がこんなことされたら、俺はいい気がしない。
だから、夏川もいい気がしない。
夏川が春日さんに惚れているという前情報があれば、俺でもこんなことくらい身に染みて理解できるぞ。
これは面倒くさい。
「……」
チラリと夏川の方を向くと、夏川と目が合った。
しかも目が合った瞬間に、夏川は鬼の形相となり、俺は何もかも最悪なシチュエーションだと思った。
どうやら俺は、墓穴を掘ってしまったらしい。
「ロボ田くん、熱なんて無いじゃないか!先方さんに君の話をしたら面白がっていたよ。猫好きな人でね、会社がスポンサーをしている映画に出てくる有名なネコにも会ったことがあるんだって」
「!!!!」
そ、その映画のタイトルはなんですか、春日さん⁈
喉まで出かかって、グッとこらえた。
これは仕事の話だ。ネコに食いつくなんて言語道断。
しかもはしゃいでしまっては、夏川の怒りをかうだけだ。
くれぐれも、表向きは冷静にしなければ。
「さあ、早く行こう」
「……」
春日さんはニコニコ笑うと、俺の肩を抱くようにして、俺を部屋から押し出した。
俺は接待どころか、社内のくだけた飲み会すら苦手だ。考えただけでも苦痛でたまらない。
だけど春日さんの接待に同行するのだけはまぁまぁ慣れた。
おそらく、俺という変わり者が活かされる時だけ春日さんは俺を連れて行く。
パソコンの入力作業だの速読だのの話や、空手の話。あとは出身大学や、その時専攻して今でも情報は欠かさず更新している経済学の話など。
今回も、俺の〝あまりにもマニアック過ぎて橘とも話せない猫トーク〟が大いに役立ち、俺自身がかなり楽んでしまった上に、危うかったらしい契約が継続となった。
春日さんは人の中心に立って、適材適所を見抜くのが上手いのだろう。俺をどんな些細なことでも役立ててくれる。
時々、春日さんは俺のことをすごく理解していて、俺をよく見てくれていると錯覚することがあるくらいだ。
夏川が惚れるのも無理はないかもしれない。
でも春日さんのそれは、すべての人間に対して平等に発揮される能力だ。
あくまで仕事のために春日さんは見極めているだけで、誰のことも特別視はしていない。
「……」
夏川は、バカだ。
俺なら春日さんには絶対に惚れないのにな。
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