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2月25日の断言
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仕事を全て終えて経営企画に立ち寄ると、夏川さんが窪田に絡んでいた。
「犯人は元カレちゃんで決定だろ。あの敵対心むきだしな感じは間違いねぇって。それに今日の写真!お前、目ぇ閉じる瞬間撮られてめっちゃ不細工だし…クククッ…やべぇ、夢に出るわコレ」
「夏川さんも、連写で撮ってあげましょうか」
「俺は何してもイケメンだから大丈夫だし」
「残念なほど不細工なのは…中身でしたね」
「あ?もっぺん言ってみろ」
相変わらずやりあってるなぁ…。
俺はわざと静かに部屋に入って、夏川さんに背後から声をかけた。
「お疲れ様ッス!夏川さん」
「ぅきゃっ!!!わっ…あっ⁈…なんだよ。マモル君か」
「ううっ、なんで名前呼びなんですか」
「だって容疑者Nが呼んでたからさー」
「その呼び方もやめてください!」
俺のことをマモル君と呼ぶ人物は1人しかいないから、あっという間に記憶の中から元恋人の姿が引きずりだされる。
この人、相手をいじるネタは絶対に逃さないな。
盗撮写真が送られてきたり、夏川さんがからんできたり、窪田はマジで大変だ。
俺はジットリと視線を感じる方に声をかけた。
「窪田は、帰れるか?」
「……あぁ」
俺たち2人は会社を出て、駅裏の餃子屋に立ち寄った。
餃子とビールと、あとはすぐ出てくるような小鉢を適当に頼んで、ホッと息をつく。
運ばれてきた瓶ビールの口を窪田に向けると、窪田は黙ってグラスを差し出した。
「なんか今週はバタバタしたなぁ。やっと落ち着いて話せるな」
「そうだな」
それから俺は手酌でビールを注ぎながら、気になって仕方がなかった本題を切り出した。
「それでだ窪田。なんで週末は連絡くれなかったんだよ。会わなくても、いつもならメールの返事くらいしてただろ?」
「……い、忙しかった」
「なんだそれ。言いたくないってことか?んじゃあ、どうして夏川さんとあの店に行ったんだ。俺を誘えばいいだろ」
俺に言えばちゃんと窪田の知りたいことは話すし、店に行かないよう、うまく窪田をなだめたのに。窪田が店に行ったって、いい思いなんかひとつもしなかっただろう。
窪田は店員が運んできた小鉢を黙って受け取り、ひとつ俺に差し出した。それからテーブルに設置された箱から竹の箸を取り出し、俺に渡してくれた。
「……前に言ったように、夏川さんは勝手についてきた。それに俺はお前が好む店がどんなところか見たらすぐ帰るつもりだったから、特に誘わなくてもいいと思った」
「はぁ〜…」
ため息しかつけない。
いや、そうやってなんだかんだ言いながらも俺のことを気にしてくれてるのは嬉しいんだけどさ。
「あのなぁ窪田。あの店は好きだから行ってたわけじゃないぞ。あそこに行けば出会いがあるってダチに連れてかれて、なんとなく付き合いで通ってただけだ」
「別にそんな話に興味はない」
「興味はなくても、お前が誤解してるのが嫌だから話してるんだよ。ああいうなんでもアリな溜まり場が好みってわけじゃないってこと!だから行く理由が無くなってからは1度もあそこで飲んでないし」
「行く理由な。…まぁ、どうでもいいが」
言いながら、窪田は目をそらして動きを止めた。
あ〜…。
何を考えてるんだろうな。
どうでもよさそうには見えないんだけど。
「あのさ、窪田はマジで、渚に会ったんだよな?」
「…」
窪田はコクリと頷いた。
俺は渚とはもう2年近く会っていない。同じ期間、連絡も取っていない。
「あいつと何話したんだよ」
「お前の話に決まっているだろう。あの男、俺を見て、自分のせいで橘の男の趣味が変わってしまったと騒いでたな」
「なんだそりゃ」
「知るか」
窪田は吐き捨てるように言うと、ちょうど店員が持ってきた餃子を受け取った。
空腹だと気が立つからな。俺も小皿2つに酢とラー油を注ぐ。
「男の趣味っつってもなぁ…。俺、こだわりは強くないけどそれなりに一貫してると思うぞ」
「どこがだ。あっちとは真逆で、俺は〝目つきが悪くて地味で暗そう〟らしいからな。お前の言うことなんて怪しいものだ」
「へ?誰がそんなこと言ったんだ?」
「さぁ」
「な〜んか、聞き捨てならないな」
もしかして渚が言ったんだろうか。
別れ際にはマジで色々あったからなぁ。今のアイツ、どうしているんだろう。仕事してるかな。家族とうまくやってるのかな。
心配はしてる。だけど俺は連絡を取る気は無い。
まぁ、あいつに思いを馳せるより、今は窪田だ。
「いいか?窪田は間違いなく美人だ。まつげは長いし瞳の色は綺麗だし、目を伏せる瞬間や考え事して視線を漂わせる時なんて、俺がしょっちゅう見惚れてるくらい雰囲気がいい。小さくて薄い唇も人形みたいに整ってるし鼻の形もバランスがいいし、肌がツルッツルでその辺の女の子より美肌だろ。でもちゃんと男らしくて、眉毛のキリッとしてるところなんか俺は特に好きだ。たまにお前の前髪をかきあげたくなるんだよな。それに身体も引き締まってて、腰の位置が高くて、なに着ても似合うし。雰囲気で勘違いされるが、お前は俺が知る中でもかなりの…」
「…れっ」
窪田が小さな声で「黙れ」と言った。
肩を震わせながら顔を隠している。
「あれ、どうした?」
「お、俺は…別に…、そんなことを言わせたかったわけじゃない。もしも、いじけて見えたのなら、ご、誤解だからとにかくやめろ。…恥ずかしい」
「あ…そうか?いや、本心なんだけどな?ははは…」
「うるさい」
窪田が茹で上がっている。
俺もちょっと興奮して熱く語りそうだったから、なんだか照れるな。
俺たちは冷たいビールをゴクゴクっと飲んで火照りを落ち着かせた。
話が逸れたから、戻さないとな。
「なあ、どうしても気になるんだけど。窪田もあいつと話してみて、あいつが嫌がらせしてると思うか?」
「…さぁな。それはお前の方がよく知ってるだろう」
窪田は嫌味なのかなんなのか、そう言ってそっぽを向いてしまった。
嫌な話を聞かせてる自覚はあるけれど、ここまで来たらお互い逃げられない。
「だったら教えてやる」
「……」
「あいつは絶対に、そんなことするヤツじゃない」
俺はまっすぐ窪田を見つめて断言した。
「夢中になると周りが見えなくなる男だけど、間違っても、あんな嫌がらが出来るような悪人じゃない」
「……そうか」
窪田は無表情だが、箸を握る手に力がこもった。
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