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012 精血
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子供が薄っすらと目を開ける。
まだ視点が合わないのか、その視線が合わさることはない。
(ああ……目も漆黒なのか……)
綺麗な子供だと思っていた。
しかし、瞳を開いた瞬間……容姿の華やかさは圧倒的に増した。
一瞬で魅力される。漆黒の瞳や髪はまるで黒曜石のようだった。
幻想的な紫空の下、子供の白い肌が光っているような錯覚を覚える。
「……大丈夫か?」
声をかけるが、子供からの返事はない。
子供は何度か大きく深呼吸を繰り返している。
『ザシュッ』と、朧の喉を切り裂く音がした。
ギルトは一番最初の精血を器にあけ俺に渡すと、残りの血を器用に筒に入れ始めた。
この精血を飲めば気分も楽になるだろう。
朦朧としている子供の口に精血を流し込む。
しかし、最初こそ嚥下したものの、すぐに唇の横からかなりの量の血が漏れ初めた。
「ぅ……っゴホッ……っ」
朧の血は稀少で、少量しかとれない。
「勿体無いな……」
早々に作業を終了させたギルトが、この子の身体を支えにくる。
飲ませやすいように背に手を当て、首を上げさせる。
子供は苦しそうに顔を歪め、首を振る。
いらないという意思表示だろうか。
涙に潤んだ虚ろな目が開く。
ようやく意識がはっきりしてきたのだろう……。
「ケホッ……ッ」
咳き込みながらも、ゆっくりこちらに視線を向けてくる。
息を飲むほど、本当に綺麗な――――少年だった。
子供にしては違和感を感じるほど、綺麗な少年なのだ。
身体は小さいのに、身体の大きさに見合う幼さがない。
寧ろ苦しそうに咳き込み、深呼吸を繰り返す姿は妖艶にすら見える。
「*……***********……」
少年は何かを喋り、頭を下げた。
「言葉が通じない……?」
嫌な予感がした。
「また偽者か……」
訝しげにギルトも吐き捨てる。
最近では、言葉が通じない水神の偽者が多くなっていた。
水神として王に招かれた際、今までの出世や、水神としての力を有耶無耶にするのに好都合とのことらしいが……。
余りにも『言葉の通じない水神』が多いため、最近では言葉の通じない者は王の謁見すら叶わないことも多くなっていた。
俺もギルトも、流行りのように現れた話せない水神は、当然偽者だと思っていた。
「最も、状況が状況だ。まだ偽者と決まったわけではないだろ?」
俺の不安な表情を察したのか、先程とは正反対の意見で、ギルトが励ましてくる。
「しかし……これでは水神と証明すらできん……」
「全く、今迄にない優秀な偽者ということだな」
少年は暗い表情でこちらを見ていた。
この子も偽者だというのなら、俺たちの会話を本当は理解しているのだろうか……。
「ゲホッ……ゲホッ……ゥ……」
途端、少年は急に辛そうに顔を歪める。
「ぅ……****……」
両手で口元を抑えて、涙目で何かを必死に堪えている。
「吐きそうか……? 気分が悪いのか?」
朧の精血を飲めば、大抵体力は回復するはずなのに…一体どうしたというのだろうか。
「ゥえッ……! っ……!!」
「お……おい!! 大丈夫か!?」
堪えきれなかったのか、少年が嘔吐する。
慌ててギルトも少年の背中を摩るが、涙を流しながら少年が身体を攀じる。
(かわいそうに……)
触って欲しくないということなのだろうが……泣きながら身を捩る姿は、やはり子供とは思えない妖艶さがあった。
俺はギルトの手を抑えて少年から離すと、すぐに少年の口から朧の血が吐き出された。
恐らく飲んだ分は全て出し切ってしまっただろう。
「大丈夫か?」
「マジかよ……朧の血だぞ……?」
苦しそうに吐き出す姿を見守るしかない。
少年は自分が吐き出したものを暫し茫然と見つめていた。
辛そうに肩で息をしているのを見て、どうしたものかと思い悩んでいると、虚ろな目の少年が俺に視線を寄越してきた。
少年の目線はゆっくりと下がっていき、今しがた飲ませた朧の血が入った器で止まる。
――――瞬間、少年が息を飲む。
(何を、そんなに驚いているのか……)
「**……!!」
ギルトが殺めた朧の死体に視線を移し、少年が悲鳴をあげる。
「*……***……」
何かを言いながら、俺を見てくる。
まるで酷く責められているような視線。
少年の全身が震え、表情すら恐怖で曇る。
「うぇっ……げっ……ぅ……」
もう吐くものはないだろうに――胃液を吐きながら辛そうにのたうち回る少年……。
ボロボロと涙を流しながら時折向けてくる視線が、心に刺さった。
暫く辛そうにしてから、ようやく少年は落ち着いたらしい。
何か言葉で訴えてはくるが俺には理解できず、せめてと微笑んで返したが、少年は悲しそうな顔をするばかりだった。
ギルトの方はというと、少々不機嫌そうだった。
恐らく、まだ偽者と疑っているのかもしれないし、それとも折角仕留めた朧を台無しにされて怒っているのかもしれない。
朧をこんなに早く見つけてきたのだ。
嘸かし骨も折れただろう。
通じない言葉に諦めたのか、暗い表情で沈む少年を見て、俺は溜息をついた。
(本当に……この子が水神であればいいのに……)
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