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028 会話
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「そこに、サディとギルトが来てくれて、助けてくれたんだ」
食事をした部屋に戻る道のりの間、僕はハリルにこれまでの経緯を話していた。
気がついたら枯れた砂漠にいて、そこでサディとギルトに助けられたこと。
麒車という乗り物に乗せられて以降の記憶が曖昧で、思い出そうとすると苦しくなること。
肉が食べられないことと、血を飲む文化に衝撃を受けたこと。
そんな僕の話を、ハリルは必要最低限の相槌だけをして静かに聞いていた。
予想していた通り、ここは日本どころか地球ではないらしく、僕は突然この世界に来てしまったようだった。
来る時は長いと思った道のりも、話をしていればあっという間に過ぎていく。
見たことのある大きな扉の前まで戻って来て、その先が先程食事をとった部屋だということに気がついた。
(もうお終いか……)
なんとなく話しにくいと思っていた彼と、会話ができたことは良かったが、結局ここまでの間ハリルは一度も自分の話をしていなくて、彼のことは何もわからなかった。
その上僕の話はあまりにも突拍子もないものばかりだから、もしかしたら変な奴だと思われたのではないかと思うと……少しだけ悲しくなった。
扉を開けると、サディとギルトは僕のことを待っていてくれたらしい。
「噴水はどうだった?」
慌てて駆け寄って来たサディが、心配そうに僕の足先から頭を見やる。
「体調は大丈夫かい?」
僕はコクリと頷く。
「大丈夫」は言葉がわからない時でも唯一理解していた単語だったから、頷いても不自然ではない。
(お礼言わなくちゃな……)
僕が話せるようになったと知ったら、二人はどれだけ驚くだろうか。
「ハリル、まさかこんなチビに早々手ぇ出したりしてないよな?」
口を開こうとした瞬間、ニヤニヤと笑うギルトに遮られた。
(あ、ギルト僕のことチビって言った)
ハリルは、フッと嫌な笑い方をする。
「え! マジで手、出したの?」
ギルトが聞き返すと、サディがさっと青ざめる。
「出してはいない」
(……嘘つき)
「でもキスはされたよ」
「……は?」
「え!?」
不可抗力とはいえ、キスはキスはだった。
不可抗力だから、あれは仕方がないことだけど。
それよりも……だ。
「ギルト、僕のことチビって言ってたんだ」
むすっと膨れてみせると、ギルトがポカーンと面白い顔で口を開ける。
チビだと自覚してるし、否定はしないけれど、そんな風にバカにするような言い方をしなくてもいいじゃないか。
「ねぇサディ、酷いよね?」
サディの腕に甘えるようにしがみつき、ギルトを上目で見つめる。
(ふふ……びっくりしてる……)
ギルトの動揺が面白くてやっただけで、チビと言われて怒ったわけではない。
体格差は、もう充分承知してるのだから。
「サディ?」
サディを見上げるとギルト以上に凄い顔で固まっている。
てっきり驚いているのだと思ったけれど……サディの視線の先にはハリルがいて、先程まで微笑んでいた彼は、今は凄く怖い顔をしていた。
(えー……なんで怒ってるんだろう……)
先程といい、どうやら彼の沸点は物凄く低いようだ。
怖かったのでそっとサディの背後に隠れる。
「イズミ……」
サディが、僕の腕を離す。
「ハリルに、喋れるようにして貰ったの?」
「え……? あ……ウン」
かなり方法に問題はあったけれど……今言葉を理解できているのはハリルのお陰のはずだ。
「よかったね」
サディはまた子供にするように、僕の頭を撫でてくれる。
(あ……そういえば……)
「ハリル……」
まだお礼を、彼に伝えていなかった。
「言葉……ありがとう……」
そう告げると、少しだけさっきの不機嫌さはなくなったような気がする。
少なくとも、眉間に刻まれた皺はなくなった。
(良かった。怒ってる顔、とっても怖いんだもん)
「あー……イズミ、チビって言ったのはその……」
申し訳さそうにギルトが弁明してくる。
「大丈夫だよ。そんなに気にしてるわけじゃないから」
「そうだよな! これから伸びるんだし!」
いくら成長期だからといって、根本的な骨格が違う彼らと同じ身長になるとは到底思えないのだけれども……。
「そうだね」
そこを敢えて否定してしまうというのも、いくら諦めているとはいえ虚しいものである。
「それより、サディもギルトも、あの時助けてくれて……」
あの灼熱の荒地で二人に出会わなければ一体どうなっていたのだろうか。
きっと今頃干からびてミイラになっていたかもしれない。
「ここまで連れて来てくれて……本当にありがとう」
――ペコリと頭を深く下げた僕には、今二人がどんな顔をしているのか、それを見ることはできなかった。
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