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030 婚姻
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――――明らかに怒りを滲ませるハリルと一緒に応接室を出る。
本来、水神であるイズミの身分は王族と同等となる。
いくら俺やギルトがハリルの旧友であっても、そこには大きな一線が生じる。
「無礼な真似をして申し訳ございません」
扉が閉まったと同時に、片膝をつき頭を下げ忠誠を誓う。
「わかっている。アレも……無意識なのだろう……」
イズミはとても懐いてくれている。
源泉から助け出した時から、俺も大切に扱って来た。 だからこの城に来ても、俺を頼りにしてくれているのだろう。……それは、よくわかる。
だか無邪気に甘えてくるのであればまだしも、どこか艶やかに擦り寄ってくるのだ。
王以外に無防備になる姿を見せることの重大さを、あの子はまだ気づいていない。
何よりハリルも恐らく、既にイズミに執着し始めている。
こんな明らかな嫉妬の感情を出した姿など、今まで見たことがない。
「陛下、ご報告したいことが……」
不機嫌な王は、何も言わない。
「イズミ……いえ、水神様は、西宮の牢でのご記憶を失くされていると思われます」
「…………ああ。そうらしいな」
「ご存知でしたか」
「アレが先程言っていた」
「そうですか……」
この件については、色々と問題が生じていた。
豪雨で被害を受けた西宮については、騎士団の管轄下ではないことだが。
「幸い……でしょうか。あの時の記憶がないことは……」
牢獄に連れて行ってしまったがために、イズミは酷い拷問を受けてしまった。
そうなるとわかって連れて行ってしまったことを、悔やんでも悔やみきれない。
イズミはそこであった記憶を封じてしまうほど、辛い目にあったのだろう。
実際イズミが負った傷は、治癒能力に長ける白の一族の力も借りなければならないほど深かったのだ。
「それと《水神》についても説明させて頂きました。やはり、水神様はそのことをご存知なかったようです」
王の表情は変わらない。
「これから少しずつお教えしていこうと思いますが、しかし……陛下とのご結婚についてはまだ伏せておいた方が宜しいかと思いまして……」
あの少年が、この事実を何処まで受け入れられるかはわからないのだ。
水神の話ですら半信半疑というような感じであった。
「婚姻に関しましては陛下ご自身でお伝えする方が良いかと……」
しかし王の答えは、恐ろしく簡潔だった。
「要らぬ心配だ。すぐに伝えよ」
「……そんな! イズミは……水神様はまだあんなに幼いのですよ!」
王との結婚――普通ならそれは望んで得られるものではない。
数々の水神の偽者たちも、王との婚礼を夢見たのだ。
「遅かれ早かれ知ることになる。幼いうちから言い聞かせておけば、自然と受け入れられるだろう」
そう言い放つハリルの言葉に愕然とする。
水神であると自覚をしていないイズミに、同性であるハリルとの結婚を告げるのは酷ではないだろうか。
あの子は今までの偽者たちとは余りにも違いすぎるのに。
「その件はお前に任せる」
ハリルは踵を返す。王はそのことを告げるために戻って来たのだ。
「イズミが……12になったら式を挙げる。伝えておけ」
そう言い放ち立ち去るハリルに、慌てて一礼をする。
(その件は任せるって……これはとてつもなく重大なことだぞ……?)
王は長い廊下を一人で進む。
王が付き人もつけず一人でいることは、甚く珍しいことであった。
――――先ほどの応接室の扉を見て、深いため息を吐く。
(重要な任を請け負ってしまった……)
重圧を感じ胃が痛む。
憂鬱な気持ちになりながらも、イズミとギルトが待っているであろう扉に手をかけた。
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