アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
032 騎士
-
この城はリースリンド国の中心にあり、通称リース城と呼ばれている。
高台の上に建つ難攻不落の城は、上層に行くほど景色が良いらしい。
「貴賓室からの景色も綺麗だろ? 夜とか城下の光が見えるし」
背負われながら下りる塔の螺旋階段。
「んー……僕高いの苦手だから、窓の外は全然見ないなぁ」
その螺旋階段に備え付けられた窓に目を向けることなく、僕を背負うギルトに告げる。
「それでリドに乗った時あんなに怖がったんだな」
荒地から助けられた時に乗せられた妖獣リドのことだ。あの時は驚きの連続だった。
「だってあんな大きいのが飛ぶなんて思わなかったし」
空を飛ぶ大きな生き物は、僕の知ってるものでは思い当たるのはいない。
(強いて言うなら恐竜かな……)
弟の樹だったら、きっと喜んだのだろう。
ちょっとしたことで家族を思い出すと、凄く寂しくなる。
もう何日も会っていないのだ。
「イズミ?」
抱きしめる腕に、自然と力が入っていた。
「あ……ごめん。本当は、今も怖いんだ」
すぐに背負われるのも苦手だと弁明する。
言い訳に使ったけど、半分は本当のことだった。
螺旋階段だと階下は見えないからまだいいが、これが普通の階段だったらもっと怖いだろう。
「……もう少しで着くから」
流石に僕を背負って下りるのは辛いのか、ギルトの息は上がり初めていた。
城は相当広いらしいけれと、僕が行き来できるのは城の東側と応接間の間だけだった。
そこだけでも博物館のように充分広いのだが、何故か殆ど人の姿を見かけることはなかった。
広い建物が不自然なほど静かなのは、僕以外に東塔の客室を使っている人がいないからだそうだ。
「おはよーサディ」
「おはようイズミ。よく眠れたかい?」
階段を下りたところでサディと合流し、ギルトの背から降ろされる。
「あー疲れた」
一息ついたギルトに「もっと鍛えるんだな」とサディ辛辣な言葉をかける。
「ごめんねギルト」
背負われてばかりいるのは本当に申し訳なかった。 昨夜もサディに背負われて部屋に戻ったけれど、サディだってその時は疲れてクタクタになっていた。
「景色良くなくてもいいから、別の部屋にしてくれればいいのに……」
どうせ空き部屋ばかりなのならと提案しても、サディもギルトも全く同意はしてくれなかった。
僕の寝室となっている貴賓室は、東側の建物の中で一番高い塔の上だった。
東側の建物の全ては、その塔を中心に『東塔』と名称されるらしい。
食事をとる応接間や謁見の間は『本館』で、噴水の部屋は『南塔』とのことだった。
「騎士団長? 二人が?」
僕がこの城に来てからというもの、サディとギルトは常に一緒に行動してくれていた。
寝る時以外はずっと一緒で、こんなに僕に付きっ切りでいて大丈夫なのかと心配になるほどだった。
サディとギルトの役職は確かに驚いたけれど、団長ならば尚更仕事をしなくてはならないだろう。
「大丈夫なの? こんなことして……」
「こんなことって、イズミの護衛係件お世話係じゃないか」
「うわぁ……そうなの……? ごめんね……」
お世話係といっても、ギルトは僕で遊んでばかりのような気もする。
「イズミはそんなこと気にしなくてもいいからね」
「…………うん」
(僕が気にしているのは、そのお世話をされてる僕が水神じゃないってことなんだけど……)
散々違うと訴えているのに、二人は頑なに僕が水神だと信じているのだ。
この国には、紅騎士と蒼騎士の二つの騎士団があるらしい。
ギルトが武術系の集まりの紅騎士団団長で、
サディは妖術系の集まりの蒼騎士団団長なのだそうだ。
騎士団に所属する形で、兵士は全て紅騎士の管轄に、使用人は蒼騎士の管轄に分布されるらしい。
両騎士団自体は国の防衛に関わる仕事だけれど、今は近隣国との関係も友好で、二人は副団長に仕事を預けているとのことだった。
「まだ若いのに凄いね」とそう口にして、自から年齢の話を蒸し返すような話をしたことに後悔する。
「それよりさ、図書室みたいなところってある?」
「図書……? 書庫のことかな?」
サディが聞き返したことで上手く話が逸れたことに安堵した。
「本が読みたいのか? お前字なんて全然読めないだろ?」
「確かに読めないけれど……」
ここ数日は、何冊か本を読んで貰っていて、これでも頑張って覚えようとしているのだ。
「ギルトこそ、本は全然読まなさそうだよね」
仕返しとばかりに言うと、「よくわかったね」とサディが笑った。
この国の文化や歴史はハリルの計らいで教えて貰えるようになっていた。
だけど一番気になることは誰にも聞けない。
誰にも知られないように、できるだけ早く自分で調べなければならないのだ。
「じゃぁ朝食が終わったら早速行ってみようか」
「朝食……ね。ハリルもいるの?」
ゆっくり話をしながら歩いているうちに応接間の扉の前に着く。
「ああ。今朝も同席するんじゃないかな」
「……そっか」
嫌だとも言えず、開かれる扉の先を見つめる。
この城に来てもう数日が経ち、随分とここの環境にも慣れて来た。
それでも、未だハリルと会う時の緊張だけは解けることはなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
33 / 212