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085 憂慮
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――――話し声が聞こえる。
「ん……」
ぼんやりと瞼を開けると、名前を呼ばれた。
「イズミ……? 起きたか?」
誰かに起こされるなど、久しぶりだった。
「ギ……ルト?」
心配そうに、顔を覗き込むギルト。
彼に起こされるなんて、珍しいこともあるものだと思う。
「ぁ……ぅ……」
(あれ……? 僕……)
起きたばかりで、現実と夢の区別がつかない。
しかし、直ぐに思い起こすあの記憶……。
(そうだ、昨日……僕は、ハリルと………!)
「……っっ!!」
「大丈夫か?」
心配そうなの声に応えることはできず、シーツを頭から被り、ギルトに背を向けて布団の中で悶絶する。
(大丈夫じゃないっ! 全然大丈夫じゃないっ!!)
「起きれるか? もう昼過ぎだぞ?」
(昼過ぎ……?)
随分長く眠ってしまっていたのだ。
これは、何があったかギルトに聞かれる前に、さっさと起きなければいけないと思った。
けれど――身体は重く、途轍もなく怠い。
後肛に痛みはないが、不自然な違和感が残っていた。
腹筋や太ともが筋肉痛のように痛むのも、昨夜の情事の影響だろうか。
夢であってくれと願う前に、身体に残る違和感が、あの出来事が現実だと訴えてくる。
布団から出て、モゾモゾと起き上がる。
(お願い……何も聞かないで……)
祈るような気持ちの僕を察したのか、ギルトは何も言ってこない。
「大丈夫か? 腹減ってないか?」
減ってない、そう言おうと思った――――
視線を移すと、ギルトの背後で僕をまっすぐ見つめる男……ハリルと視線が交わった。
(ハ……ハリル!)
鼓動が跳ね上がり、思わず反射的に目を反らす。
(どっ……して、まだいるの……?)
一瞬見えたハリルの目。
まるで射抜くような視線から逃げるように、ギルトの身体でハリルの視線を遮る。
それでもなお、見られているような錯覚を覚えた。
昨日、何があったのか――徐々に記憶が鮮明に……リアルに思い出されてくる。
(ど、どんな顔してハリルを見れば……)
――――初めての行為だった。
でも、初めての余韻に浸る暇なく翻弄され続けた。
思い出すだけで、身体の奥が未だ疼くような感覚がする。
(おかしくなっちゃった……僕、おかしくなってる……)
顔が熱く、鼓動が高鳴る。
(ど……どうしよう……!)
――――そんな気まずい空気を壊すように、部屋にギルトの声が響いた。
「……つっまんねぇ〜……」
吐き捨てるように告げるその声色は、いつものギルトそのものだった。
「あ〜あ! ハリル、明後日披露会だっていうのに、待てなかったのかよ!」
(披露会……)
グシャグシャと、ギルトは僕の頭を撫でる。
相変わらず力一杯撫でるものだから、僕の首はグラグラと揺らいだ。
「ほら、いい加減起きろよイズミ。ダラダラしてると、披露会当日に昼夜逆転することになるぞ」
グラスに水を注いで、ギルトはそれを僕に渡した。
「ぁ……」
――――この水は、飲んでも平気な水なのだろうか。
昨夜も情事に至る前……眠りに落ちる前に水を飲んだ記憶がある。
(……あれにも、何か入っていたのかな……)
グラスの水を見つめたまま飲むのを躊躇っていると、スッと視界が明るくなった。
ギルトがハリルの方へ向かったのだ。
「ったく、ハリルも」
一瞬、ハリルと目が合った。
でも、すぐにその視線はギルトに向けられ……ハリルはギルトに微笑み返した。
僕にする笑顔とは違う、そんな表情をギルトに見せた。
(あんな顔で、ハリルも笑うんだ……)
僕といる時、彼はいつも影がある笑い方ばかりをする。
ギルトが何を言ったのかわからないけれど、ギルトの言葉でハリルは確かに笑ったのだ。
(一体僕は、ハリルにとってどういう存在なんだろう……)
グラスの水を飲まずにそのまま置く。
喉は乾いていたけど、胸が苦しくて、水を飲む気にはなれなかった。
「じゃぁな、ちゃんと飯食えよイズミ」
「!!」
ギルトの明るい声が、場違いなように部屋に響いた。
(まさか……)
ギルトは、ハリルを残して部屋から立ち去ろうとしているのだ。
「まっ……」
掠れて、声が上手く出なかった。
僕の制止の声はギルトには届かず、無情にもバタンと扉が閉まる。
――――無言の、時間。
「……ギルトが良かったか?」
口を開いたハリルには、先程ギルトに見せた笑顔はもう微塵も残っていなかった。
不機嫌さが増したその表情……冷たい目で、僕を見ている。
(どうして……)
視線を外し、布団を顔半分まで引き上げる。
僕の身なりも、シーツも、綺麗に整えられている。
身体の痛みもない。
昨夜は、何もなかったのかもしれない。
夢だったのかもしれない。
そうであったら、どれだけ良いだろうか。
それでも、昨夜の情事を物語るような後肛の違和感が、未だ疼きとなって残っていた。
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