アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
100 決意
-
扉を少し開けると、昨日僕が迷い込んだ薄暗い路地の空間がそこにはあった。
向いの扉……本当にそこが反王国派のアジトで、エダが連れ去られたのだろうか。
「反王国派の人達って、人を攫ったりするんですか?」
もし違かった場合は、余計大変なことになる。
だけどエダが本当に捉えられているのならば、一刻の猶予もないのだ。
「さぁ……でも、野蛮な奴らだから……。偶に女を拐すこともあるみたいだけど……」
そう言ってケイトは、自らの身体を覆う布を少しずらして指を差す。
「ほら、私はこんなだし……だから大丈夫だと思ったんだけどね……」
そう言われて、思わず返答に困ってしまった。
でも、項垂れたケイトに素直に気持ちを告げる。
少しふくよかで、強い意志と優しい雰囲気を醸し出す……そんなケイトが大好きだと思った。
「ケイトさんも素敵ですよ」
そういうと、ケイトは目を点にする。
「あんた、子供らしくないこと言うもんじゃないよ……」
顔面蒼白だったケイトの頬が、幾分か和らいだ気がした。
少しだけ微笑み返して、僕は再び決意する。
(助けなくちゃ、絶対……)
僕を助けてくれた、優しい母娘だ。
絶対に助ける。助けなければならない。
――――不思議なことに、身体の怠さは全く感じなくなっていた。
そっとケイトの家の扉から出て、反国王派のアジトといわれる扉に耳をつける。
いわゆる聞き耳という奴だが、これといって声が聞こえるわけでもない。
(やっぱり、そう上手くいかないもんだな……)
いきなりここで躓くとは……なんとも情けない。
意気込みだけでは、どうにもならないということだろうか。
(どうしようか……)
路地奥に積み重なる木箱をつたって、屋根によじ登ってみるのがいいかもしれない。
その時、背後で息をのむ声が聞こえた。
「ひっ……………!!!」
振り向くと、口を両手で必死に押さえて、ケイトが上を見上げている。
彼女が怯える様子を見て、背筋が寒くなる。
(奴らに見つかった?)
僕もケイトの視線を追って、視線を上にあげる。
するとそこいたのは――――
「シト……!!」
二つの黒い目が、パチリと僕を見て瞬きする。
(どうして、シトが……)
そう思ったが、慌ててケイトに向き直る。
「あ、ケイトさん、この子は大丈夫です……」
そうは言ったものの、ケイトはシトと僕を交互に見て固まっている
悲鳴をあげたい衝動を、必死に堪えているようで、その目は恐怖と動揺で揺らいでいた。
(まぁ、気持ちはわからなくはないかな……)
まだ子供とはいえ、シトはかなり大きい。
しかもそのシトが、頭をこちらに向け、逆さまになって壁と壁の間に張り付いているのだ。
「シト……それ、ちょっと怖いよ……」
言うとシトは少し困った顔をする。
いや、実際は表情はかわらないけれど……。
『そんなこと言っても、ここ狭いんだもん』という声が聞こえてきそうで、思わず笑みが零れ落ちた。
確かにこの空間の狭さでは、シトは地面に降りることはできない。
この状態で僕の顔を見るには、壁に貼りくしかないということだったのだろう。
――――でもどうやらその動作が愛くるしいと思うのは僕だけらしく、ケイトは目を白黒させていた。
「ケイトさん、怖がらせてすいません……」
少しシトが身を動かすと、ケイトの身体はビクリと跳ねる。
シトの目線が、何かを訴えていた。
「……もしかして、エダの居場所、知ってるの?」
そう言うと、シトが少し身体を下げ、僕の方に近づいた。
「ぃっっ!!!!!!」
ケイトの口から、再び微かな叫び声が漏れる。
シトはとても大きい。まだハリルの妖獣――バルシェットまでとはいかなくても、その姿は圧巻だった。
「大丈夫です。僕、エダを助けに行ってきます……」
そう言って、シトの首に捕まる。
(この状態で上に上がるのか……)
不安がよぎるが、怖いなんて言っていられない。
わかってはいても一瞬身が竦む。
「いいよ。シト。大丈夫」
そう告げると、シトの身体は浮き上がる。
「なぁ、あんた……その妖獣……」
ケイトが何かを告げようと口を開きかけた。
「ケイトさんは部屋で待っていてください。僕がエダを、必ず連れ戻します……!」
シトの首にまわした手に力を込めると、シトは空高く浮上した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
101 / 212