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101 奏功
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灼熱の太陽が頭上にある。
屋根の上に降り立つと、その高さと暑さに目眩がした。
建物は思ったよりも高い。
身長高い国の人たちだから、三階部分の屋根であっても相当な高さのように思える。
(キツ……)
早々に弱音を吐いてしまいそうになると、心配そうにシトが僕にすり寄ってきた。
「大丈夫だよ、シト。エダはどこにいる?」
そう聞くと、シトは目線だけである一ヶ所を示した。
屋根の上の音が鳴らないよう静かに屈み、そこを凝視する。
――どうやら、わずかに開いた亀裂から中が除きこめるようだった。
覗き込んだ部屋は、思ったよりも薄暗い。
それでも、古くなった壁にもところどころに亀裂が入っていて、差し込む光から中の様子が伺えるようになっていた。
(中は……倉庫……なのかな?)
肌に触れる屋根が、熱を帯びていて熱い。
コンクリートのような物質ではなく、土の屋根だからまだ良いものの、それでも陽の光を受けたそこに這いつくばって中を覗くのはかなり辛かった。
(エダ……エダはどこに……?)
それでも必死に中を覗き込む。
「……っ」
わずかな隙間から、声が聞こえる。
――――これは、泣き声だ。かすかに泣き声が聞こえてくる。
(エダ………!)
生きている。まずはそこの安堵感。
そして泣いていることに対する不安。
(どうしよう……早く助けなくちゃ)
怪我をしているのだろうか。
捉えられているのだ。さぞかし怖い思いをしたのだろう。
奴らに酷いことはされていないだろうか…… 。
「シト、どこか入れるところはない?」
でも、シトはこの質問には悲しそうな目で首を傾げるだけだった。
(無理か……。どうする? どうしたらいい?)
それならば――――
「壁、壊せる……?」
そう聞くと、シトの目が強く光ったように見えた。
「お願い、シト!」
告げたと同時に、シトは音もなく飛翔する。
(って、まさか………)
「なっ、なるべく見つからないように……!!」
と叫んだ声は、土の壁が激しく崩れる音にかき消されてしまう。
壁をぶち破ったシトも、黒い大きな目でこちらを見る。
(あぁもう……遅かった……)
こんな派手な音を立ててしまったら、直ぐに人は集まってくるだろう。
「仕方ないっ……! シト! 隠れてて!!」
シトの姿は、あまり人には見せたくなかった。
シトにも、僕に関わり危険な目に合うことはして欲しくなかった。
ましてや、シトは珍しい妖獣なのだ。
奴らに見つかったら、何をされるかわからないのだ。
「なんだ!? どうした!?」
男たちの怒号が響く。
壊れた壁から部屋に入り込む。
崩れた土の壁に躓きながらもエダの元に駆け寄り、その体を抱きしめる。
「エダ! しっかり!」
泣いていたエダは、僕の姿を見て目を見開く。
「うぇぇん……! お兄ちゃぁあん……!!」
エダの腕は拘束されていたが、それを解く暇はない。
5歳の少女とはいえ、殆ど自分と同じような体格で、そう簡単に担ぐことはできなかった。
「行くよ!」
縛られたままのエダを、支えながら走る。
「エダ! 外へ!!」
シトによって崩落した壁は三階の屋根の部分だ。
倉庫にあるハシゴを立てかけ、エダの手首の拘束を緩め、そこを登るように促す。
(外に出れば、なんとかなる……)
ドタドタと男達が駆け上がってくる。
「急いで!!」
「ぅえぇええん!!」
恐怖からか、エダは泣き叫ぶ。
もう直ぐ、部屋の扉が開く――――。
時間を稼がなければ……。
開きかけた扉の前に棚を倒す。
「なんだ貴様は!」
「お前っ……!!」
(見つかった……)
一瞬だけ、お互いが姿を確認しあったと同時に、僕は屋根へと続く梯子を登る。
「あの時の――水神!!」
部屋に雪崩込んだ男のうちの一人が、そう叫んだのを背中で聞く。
「エダ!!」
屋根の端で待っていたエダを抱きしめ、そこから飛び降りる。
怖いなんて、思っている暇はなかった。
「きゃぁぁぁぁあああ!!」
エダの悲鳴。落ちる僕たちをシトはすかさず受け止めてくれる。
「きゃあああああああああああ!!!!!」
そのシトの姿を見て、落ちた時以上にエダは叫んだ。
「大丈夫だ! 味方だよ!」
急いで、母親の元にエダを返さなければ。
腕に抱きしめるエダの感触――――。
ほとんどシトに手伝ってもらったけれど、無事にこの子を助けられた。
僕はこの世界に来て、初めて達成感を覚えていた。
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