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181 接吻
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それは遠い昔、幼い時の記憶だった。
「おかあさんぼくね、へんなゆめをみるんだよ」
どれだけ前のことだったかわからない。けれど、毎日見る不思議な夢のことを母に伝えたいと思ったのだ。
「あのね、おそらにみずがあって」
どうやって夢のことを告げれば良いのか、わからなかった。
「そっちにいきたいの」
そういって天井を指差した。見上げた天井はいつも通りの天井のはずなのに、その時は不思議と水面に見えたような気がした。
「泉は……」
そのとき母はなんと答えたのだろうか。
「―――――――――――――――――? ――――――――――……」
それはあまりにも昔の記憶で思い出すことが難しかった。
「――――――――――…………」
ただ、幼い時に覚えている母親の顔は夢の話をすればいつだって悲しそうに変化してしまう。
「―――――――――――――……」
どうして母がそんなに悲しむのか、その時僕にはわからなかった。
だけど必死に言葉にした。大丈夫だと、そう母に伝えたかった。
悲しまないで欲しい。泣かないで欲しい。大丈夫だから……。
「ええ。そうね……。やくそくよ。泉。―――――……―――、――――――……」
至極当然だと思うことを、まるで母は祈るように請う。
その言葉があまりのも真剣で、母は辛そうだったから、もう夢の話はしないようにしようと思った。まるでこの夢を見ることが悪いことのような気がして、だから夢のことは僕だけの秘密にしようと思ったのだ。
幼い頃から繰り返し見る夢の中で、見上げる水面の上の世界がどうなっているのか、ずっと気になっていた。
いつも気になっていた水面の上の世界――――徐々に成長するにつれ、その夢を封じ込めようとする気持ちよりも興味の方が勝ってしまった。未知なるものへの恐怖や不安よりも、その水面への好奇心が勝ってしまったのだ。
もしかすると、最初から止めることなどできなかったのかもしれない。だって僕は、夢を見るたびに水面へと手を伸ばしていた。
夢の続きを見るたびに手を伸ばし続けていれば、いつかはその水面の上の世界に届く日が来る――――いつからか僕は、無意識にそう確信していたのかもしれない。
そしてあの日――――ついに僕の手は水面に届いたのだ。伸ばした腕は確実に水面を捉えたのだ。その手は空間を超えて、そしてこの世界へと繋がった。
遅かれ早かれ、僕はここに来るべきだったのだ。きっと、こうなる運命だったのだ。
それでも最初は、この世界に来なければよかったと何度も後悔していた。
だって、僕が降り立った地は肌を焦がすような灼熱の太陽が燦々と照りつけていたし、とてもじゃないけれど、この世界では僕は生きていけないと思ったのだ。
この世界に望まれていない。まるでこの世界に拒まれているようだと……そう感じたりもした。
僕がいなくなって、家族や友人はどうしているだろうか……。
父はきっと、僕のことを必死に探してくれている。母はきっと沢山泣いただろう。
急に僕がいなくなって、樹は怒っていないだろうか。華は寂しい思いをしていないだろうか。
帰りたかった。ずっと家族の元に帰りたかった。
この世界に来てから、本当に色々なことがあって、でも結局僕はそれに抗うことなく、ただ淡々と飲まれるように生活し続けていた。
助けられて、城に招き入れられて、妙な影や匂いに怯えながら、ハリルに沢山反発して……。
閉じ込められて隔離された僕が、この城で見ている世界は酷く狭いものだった。一度城から逃げ出して見た世界も、たった一つの街でしかなかった。
――――だけれども、あの逃走の時に思ったのだ。偽りの水神としてではなく、僕自身の居場所はどこなのか。元の世界に戻れるまで、この世界での僕の居場所を見つけようと思っていた。
けれど、ハリルは僕を選んでくれた。
水神ではなくても、この城にいることを許可してれた。偽りの水神として僕がここに残ること。それによって、これからも多くの人を騙すことになるかもしれない。
その罪はどれだけ重いのか、そしてそのことでハリルが責められる日が来るかもしれない。
でも例え偽りだったとしても、偽りとしてハリルに必要とされたことが、何よりも嬉しかったのだ。
ここが僕の居場所になるのだと思えて、嬉しかったのだ。
――――――――――
――――その時、全てがスローモーションになったような錯覚を覚えた。
「愛してる、イズミ……」
ハリルが告げ、そして僕を戒めていた紐が解かれ、ようやく絶頂へと至ることが許される。
ドクドクと、ハリルのモノが僕の中で脈打ち――――そして、ずっとずっと……恋い焦がれていたハリルの唇が、僕の唇に触れる。
合わさる唇。
ずっと、この瞬間を望んでいた。
ハリルの唇の感触。
彼の舌が、僕の口に入り、絡み合う。
「んうっ!!! んうーーーーーーー!!!!!」
激しくなる手淫と、腰の動き。
そして舌で口腔を犯されながら、僕は絶頂を迎えた。
それと同時に、中で感じるハリルの飛沫。
ボタボタと、涙が零れた。
僕と、ハリルの二人の唾液が、僕の顎を伝って溢れてくる。
世界が変わるほどの、凄まじい快楽。ハリルの熱が、僕の身体に浸透していく。
(これは………この感覚はなに………?)
脳が……身体が痺れていく。自分の身体の血液がまるで暴れているようだった。
耳元で鼓動が聞こえる。血液が流れて心臓が動いているのがわかる。
(熱い……すごく熱い……)
「……んっ……」
唇の間から漏れる、卑猥な水音。
(気持ちいい……嬉しい……どうしよう……)
「んんっ…………ふぁん………ん…くぅぁ……」
僕の声は、嬌声から嗚咽になっていた。
(なんだろ……これ……)
愛おしいと感じた。
この熱も、快楽も、今僕と接吻を交わしてるハリルも……そして、この世界も、全てが愛おしい。
「……大好きっ……ハリル……」
キスの合間、息も絶え絶えにそう告げる。
ハリルの腕に力が入り、そしてより一層濃厚に口付けてくれる。
そして、僕の中に埋められたままのハリル自身が再び硬さを取り戻す。
(感じてるんだ……ハリルが、僕の身体で……)
込み上げてくる喜び。身体中に渦巻く熱が行き場を無くしてグルグルと蠢いている。
でもそれは不快ではなくて、暴れたくなるほどもどかしい感覚で……。
「いっぱい、しよぉっ……ハリル」
嬉しくて、切ないほど幸せで、彼の頬を両手で掴み、今度は僕からキスをした。
唇に、触れるだけのキス。それですら、涙がとめどなく溢れるほど嬉しい。
「ずぅっと、キスしたかったの……」
秘めていた思いを告げると、またハリルは僕を抱きしめてくれる。
(――――焦がれていたんだ……)
感じる肌の温もり。合わさった唇。
(――――きっと僕は、この世界にに焦がれていた……)
そのキスはどんどん濃厚さを増していく。
「んっ………んぅ………んくっ………」
(――――此処こそが、水面の上の世界で……僕が望んだ世界なんだ……)
そして、ハリルの腰が再び僕を打ち付け始めても―――――僕達はずぅっと、唇を合わせたままだった。
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