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一人でもくもくと準備をする。
日曜は定休日だが、俺に休みはない。
すしの専門学校があったり、もっと短い期間で板場にたてる店もある。
海外の日本食ブームもあいまって、寿司を握れれば外国で働く道もある。
専門にいって基本を身に着けて海を渡るヤツもいるだろう。
俺は違う。
不器用だし、後ろ盾もない。信じられるのは自分だけだから、強いバックボーンが必要だった。
厳しいことに耐えて生き残った、そして一人前になったという事実が欲しかったからだ。
銀座をはじめ何店舗か支店のある寿司店に入社した。比較的近い都市の店が予定されていたのに、結局都内の店舗でスタートすることになった。
1年目は挨拶、掃除、下働き、米とぎ、出前。もちろんお茶だしと接客。
ここでは「無理カテ」なんか必要なかった。とにかく1日を乗り切ることに精一杯で、誰かを好きになる心配なんか必要ない日々だ。
今までの常識がどんどん塗り替えられる。
とにかく怒られる。できるまで、きちんとこなせるまで、同じことを何回も何回も積み重ねる。
できるようになっても繰り返す、来る日も来る日も。
怒られることに耐えられない、そう言って辞めていく同期もいた。
いつまでたっても先が見えないといって辞めていくヤツもいた。
山のような洗い物で、初めて手が荒れ、アカギレなるものを作った。痛いからといって洗い物がへるわけじゃない。役目をこなしていくと、そのうち手の荒れも収まっていく、皮膚は確実に適応していく。
ダシをひくことを覚え、2年目にはいったころから賄いの役目が回ってくるようになる。
とにかく周りを観察して何が行われているのかを知る。
できるかできないかではない、まずは何が起こっているのか?だ
「おいこら!誰だ、俺の包丁研いだやつ。」
「よし。」
怒られる、合格点、その差はなんだ?
できるだけ自分の役目を早く終わらせ、包丁を見る。研いでいるやり方を見る。
聞けば5年研いでいるというじゃないか、それはつまり研いでもらえる身分になるためには5年かかるということだ。
見る、見る、見る。自分の自由になる時間を作る。備える。
休みの日に店にいく先輩に煙たがれながらついていき、定休日の日に何をしているのか把握する。
教えてくれといって誰が教えてくれるというのか。
ここで自分に入力できるのは自分しかいない。
「やってみるか?」
そう言われた時に、できませんと言うことのないように、チャンスを無駄にしないように。
それが俺の毎日。
恋?ばかばかしい。付き合う?それなに?
欲を吐き出す以外、今の俺に男はいらない。
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