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「やっぱり美味しい。」
相変わらずホコホコした気持ちになる、暖かい寿司。
「怒ってないですね。」
そう言われて思う。怒りの元がなくなったからだ。イライラとしていた溝口への想い。修行に対するあり方。
それにサワさんの存在・・・。あの優しさが俺を強くしてくれている、あの人を想うことで優しくなれる。
「少し、整理ができました。色々と・・・大将のおかげです。」
「そんなことありませんよ。」
「ありますよ。」
「一流の寿司屋を目指そうと思ってました、若い頃はね。」
「へえ。」
「お客さんがいるようなね、諭吉さんがどんどん飛んでいくような。」
確かに、どんどん飛んでいく。
「世界一周の旅みたいなものです。一生に一度あるかないか。そんな寿司屋です。でもね、辞めました。」
何があったのだろう。何がそうさせたのだろう。
「今日はちょっと旨い魚が食いたいな。それで小遣い握ってつまみにくる。
孫や子供が遊びにきたから、奮発しようか。そうやってね、日常の中にある寿司屋もいいかなと。
いってみれば街のお寿司屋さん。」
「街のお寿司屋さん・・・。」
「世界一周は無理でも、近場の温泉にはいける。身近なちょっとした贅沢、ホコホコするようなね。」
・・・・ああ、これだ。
自分の目指すものは、こっち側だ。宝石のように光る高価なネタが居並ぶ場所じゃない。
美味しくて、あたたかい、幸せの味。 温泉か・・・。
うっすら考えていたことが、しっかりとした形になった。
俺は心を決めた。
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