アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
35
-
「大学いかせて卒業して、就職して・・・。
福岡にいったんですよ。盆と正月ぐらいは帰ってこいよって送り出しました。
半年・・・でした。交通事故であっというまに逝ってしまった。」
「まさか・・・。」
「生きていたら、お客さんと同じ歳です。
あの子の命日は、供養のために握ります。夜の営業はナシ。
握ってネタが渇きそうになる頃に、自分でそれを食べる。
いつも言っていましたよ。最後に食べるのは親父の寿司がいい・・・ってね。
食わしてやれなかった。」
亡くなっていたなんて・・・・。
「ふらっと立ち寄った、お客さんのこと忘れられなくてね。ちゃんと頑張っているか気になってはいましたが、まさか辞めちまうとは。
ご両親に、辞めたことは?」
「まだ、言っていません。」
「その・・・女がダメってやつで縁切りしてるわけじゃない?」
「大学に進学しない訳をちゃんと言えなかったから、気まずくはなりました。でも卒業前におせっかいな幼馴染が俺達はつきあっているんだっていう猿芝居をクラス全員の前でやらかしまして・・・。
狭い社会ですから子供の口から親に伝わるでしょう。両親の耳にもはいっているかもしれません。
彼女がいるのか一度もきかれたことがないので。」
「親っていうのは、子供が生きてさえくれればそれだけでいんですよ。」
「はい・・・。」
「一度帰って、ちゃんと報告なさいな。」
「はい・・・。」
「はっきり言いなよ、まどろっこしいな、大将は。」
「古さん!」
「息子と同じ年の子が、息子と同じこと言ってるんだぞ?
最後に食べるのはアンタの寿司がいいってさ。大将の寿司に惚れましたってさ。
ずっと気にしてる子が頭下げて弟子にしてくれってんの、アンタ断る気じゃないだろうな。
ここに3年しか勤めてないくせに一人前な顔して辞めていった若造よりずっと兄ちゃんのほうが根性あると思わねえか?
ここに来る前に暇もらうぐらいだ、その覚悟わかるだろ?」
「古さん・・・勘弁してくださいよ。」
「兄ちゃん、店変わりましたって、ご両親に逢ってこいや。」
「えええと、あの・・でもまだ。」
「大将!」
「わかりましたよ、当たり前ですよ、こんな子放っておけますか!
ご両親に逢ってちゃんとしてから、顔だしなさい。細かい決め事はそん時でいいでしょう。」
「ありがとうございます!」
「まったく・・・もっとチャッチャと「うん」といえばいい話だ。俺はすっかり平らげて待ちぼうけだ。
大将いつものと、兄ちゃんには就職祝いで握ってやってくれ。」
「古さんにはかなわんですよ。」
俺の道が一歩拓けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
56 / 122