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刹那の日常
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最近、梅村君の様子がおかしい。
「梅村君。」
梅村君の後ろ。テストの成績で決められた俺の席。
俺が梅村君を呼べばにこやかに振り向いてくれるのが日常だった。それなのに最近おかしいのだ。
「ねえ、梅村君。」
やっぱりだ。振り向いてくれない。肩を叩けば、漸く俺の方を振り向いてくれる梅村君。
でも、青いのだ、顔が。
「な、何?」
気まずそうに俺を見てくる君。俺は君に一体何をしたのだろうか。
「最近、何かあった?」
俺は心配でそう訊ねてみる。しかし、必ず帰ってくるのが「ううん、なんでもないけど。」だ。昨日、今日と続いて同じ言葉が帰ってきて、俺は悲しくなった。
「透、今日家に「あ、英語の辞書忘れたや。ちょっと葉山から借りてくるね。」あ、うん。」
そして、俺が君の家に言ってもいいかと聞こうとすると必ずはぐらかされるのだ。俺は、教室から出ていく梅村君の姿を目で追った。
次の英語まであと5分。
「おい。」
ぼうっと教室の扉を見つめていると、俺の斜め前から河崎が呼びかけた。
「なに? 今忙しいんだけど。」
姿を見せる気配のない梅村君に苛立ちながら、河崎の呼びかけに応えた。
「お前ら、どうしたんだよ。」
河崎はそんな俺の姿に見慣れているのか、俺が今扉を見つめていることには触れないまま梅村君の椅子に座った。
「どうしたもこうしたも、俺は何もしてねーよ。」
ああ、イライラする。
俺は河崎をギロリと睨むようにして見た。
そうだ。
俺は何もしていないのだ。
それなのに、梅村君は俺を無視する。昼飯を四人で食べる時も、他の二人には笑いながら話しているのに俺が話しかけると気まずそうな顔をしている。
それだけではない。
部活がない日は梅村君を誘って二人で帰ろうとするのに「寄るところがあるから、セツは先に帰っててよ。」と言って、断られる。
正直、最近の俺は機嫌が悪い。
「俺は、梅村君に何もしてない。いきなり避けられるようになった。」
そうとだけ伝えると、河崎はふーんと言った。
「お前さ、それって何もしないのがいけないんじゃねーの?」
「は?」
「だから、恋人として何もしてないから不満もってんじゃねーの?」
河崎が余裕のある顔でそう言った。
「馬鹿か。梅村君はお前じゃないんだよ。」
頬杖をやめて、真っ直ぐ前を向く。河崎の眉が一瞬ぴくりと動いたことは気にしないでおこう。
「そんな余裕かましてると、逃げられるぞ。」
「逃げられるって……」
「梅村を狙っている男はたくさんいる。お前が鈍感だから気づいていないだけかもしれないけどな。なにせここは男子校だぞ。お前みたいな梅村くん大好き人間が他にいてもおかしくはない。」
お前みたいなという言葉に俺は、返す言葉を失った。男子校で男同士を好きになるやからがいるなんて思えないと、俺自身は高を括っていた。だが、自分自身が梅村君を好きでいる。今更、ありえないと断定も出来ないのだ。
「嫌だな。」
俺の正直な気持ちが口から出てしまった。
そう、嫌だ。
君が俺以外のほかの誰かからとられてしまうだなんて、そんなの絶対嫌だ。
俺のこの気持ちを知ってか知らずか、河崎はニッと口角を上げて微笑んだ。
「分かったなら、さっさと行動にうつせよボケ。」
綺麗な顔から暴言が吐かれる。
「全く、少しは親友の俺をいたわれよ。」
「充分いたわってんだろうが。」
河崎は笑い混じりにそう言って、席を離れていった。その後、梅村君が教室にやってきたのは、授業開始1分前だった。
梅村君はそんなに俺と話したくないのだろうか。
俺は、君と話したいよ?
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