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はじまりの前
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「...であるから、このときー..」
ずっとずっと遠くで、教授の声が聞こえる。
眠気を誘う柔らかくて低い声。
寝ちゃだめだと頭では分かっていても、それは人間の本能。
意思でどうにかなるものじゃない。
もう大人しく寝てしまおう。
深く目を閉じて、本格的に眠る体勢に入ったとき、パァァン!と気持ちのいい音と共に後頭部に強烈な痛みが走った。
「.っ..痛いぞ、おい」
「寝ようとするお前が悪い」
「.....」
まったくの正論に何も言い返せず、俺はむくりと起き上がる。
電気のように走った痛みのおかげで、あんなにもしつこく襲いかかってきていた眠気は何処かに飛んで行ったようだった。
目をごしごしと手で擦り、シャーペンを握りしめた俺をみて友人は呆れたように話しかけてくる。
「てか、なんでそんな眠そうなわけ」
「..昨日もバイトだったから」
「何時まで」
「夜中の1時..かな」
「何お前ふざけてんの。死ぬ気なの」
そんなわけないだろう。
きちんと働いてくれない頭をさすりながら、唇を尖らせる。
大学生は貧乏なのだ。これくらい働かないとやっていけない。
母子家庭のうちなんて特にだ。
「てかお前雑貨屋で働いてんだろ。そんな時間まで仕事あるわけ?」
「新しくはじめまして..」
「はぁ?どこだよ」
「居酒屋」
「マジでなめてんな。死ぬぞお前」
なめてません。死にません。
一つ小さな欠伸をしてから、そっと友人から目を逸らした。
だって、居酒屋って時給高いんだよ。
「まさか今日もあんのか」
「いや、今日は雑貨屋だけ。あんま働くと母さんに心配かけるし」
「...はぁ。そのうち胃に穴あくぞ」
「....気をつけます」
そんなことを話しているうちに、講義は終わりを告げた。
...どうせなら寝て終わりたかったな。
「で、雑貨屋は何時から」
「このあと、昼飯食ってから」
「はやいなおい」
「今日俺もう帰れるからさ」
へへっと笑う俺をみて、友人は重いため息を一つついた。
「まぁ、頑張れよ。秀」
「ありがと、裕司」
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