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ケイが用意してくれたカレーは辛口だった。市販の辛口のルーにさらにスパイスをぶっこんだような辛さだった。
カレーは保存も効くし、比較的簡単な料理なのにユウが引っ越す前はカレーなんて食卓に出なかった。
ユウが辛いものが苦手だから。
ユウが引っ越す前は煮物や肉料理が多くて、昼は毎日ラーメンと、ユウの好きなものばかりだった。
あたしもケイも辛い物が好きだからユウがいない日にはここぞとばかりにカレーやキムチ鍋などだった。
「優子さん今日は飲むの?」
机を挟んであたしの真正面に腰掛けているケイが抑揚のない淡々とした調子で話しかけてくる。
右手で頬杖をつき、左手は膝の上に乗せている猫の背中に置かれている。
「もちろん。」
「ロックでいいよね?…ゆうた、邪魔。」
猫の脇の下を抱えて下ろし、けだるげに立ち上がった。
気持ちよさそうに目をとろんとさせていたのに急に下ろされた猫は恨めしそうにご主人様を見上げた。
「………ケイあんた、今笑った?」
「は?」
猫に向けていた視線をあたしに寄越した。
さっき、猫の視線に気づいたケイが猫を見てふっと表情を緩めていた。
「笑うくらい誰だってするでしょ。」
そう言って冷蔵庫へ足を向けた。
「お父さん、お母さん。優斗を俺にください。」
人前でだってあたしのことを「お母さん」なんて呼ぶことはないくせに。
改まって言われたのは、「ゆうた」と呼ばれる猫を拾ってきた日と同日だった。
ケイがユウを好きなのは知っていた。
けれどそれはあくまで兄弟愛であって、恋愛感情だということは思ってもみなかった。
なのに、そう言われてもさほど驚かなかった。
本当はとっくに気付いていて、気付かなかったふりをしていたのかもしれない。
小さい頃の全てにただ怯えてユウの後ろで震えていたケイがいつしかユウの手を引いて周りから遠ざけようとするようになった。
嫉妬や独占欲。誰でも持っている当たり前の感情。
ケイにとっては、ユウが全てだった。
だから、ケイの持つ感情の全てがユウに向かってしまっただけのこと。
「彼女だ」、という女の子を連れてきてもその子に関心が向いていないのだと、ケイの顔を見ればよく分かった。
その代わりに、一人暮らしを始めたばかりの頃のユウが家に帰ってくると嬉々とした表情を見せていた。
関心がないのを装ってなのか自分から話しかけることはしなかったけれど。
猫の名前が「ゆうた」だと知ったのは猫を拾ってきた翌日だった。
「優」斗と啓「太」から、で「優太」と名付けたのだと思って、猫を子供代わりにしたのかとドン引きしたけれど猫の入っていた段ボールに下手くそな字で「ゆうたくんです。かわいがってあげてください。」と、イラスト付きの紙を見せられてどこかでほっとした。
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