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ユウもそうだけれど、ケイには幸せになってほしかった。
やりたいことは何でもさせてやりたかったし、欲しいものは何でも与えてやりたかった。できる限り望むことは何でも叶えてやりたかった。
ケイには主体性がなかった。
ケイが学校に通い始めて少し経った頃、好きな物を買っておいで、とお金を渡してスーパーに行かせたことがあった。もちろんユウと一緒に。ユウについて行った、と言う方が正しいのだけれど。
帰ってきたケイが持っていたのはユウの好きなお菓子だった。ユウに聞いたら「啓太が俺に選べって言うから」と言った。それを自分は一口も食べることをしないで全部ユウにあげようとしていた。
本当は嫌だったくせにユウが遠くに引っ越すことも何も言わなかった。
高校もユウが行っていたから、という理由だけで決めていた。将来やりたいことはないの、と聞いたら何もない、と答えた。
何がしたい、何が欲しい、と言ったことがなかった。
与えられたからこなすだけ、ユウがそうしたから自分もそうする。
ユウが欲しい、というのは初めてのお願いだった。
それからケイは猫を飼いたい、ユウと同じ大学へ行きたい、留学したいと自分の意見を言うようになった。
主体性がないわけではなかった。
ケイの行動の全てはユウへの好意の現れだった。
足に柔らかくて温かい感触があって下を見る。
ケイの膝から下ろされた黒猫があたしの足に身体を擦りつけていた。
「優子さんごめん。」
それを見たケイが、こちらに歩み寄ってきて猫を抱き上げた。
「別にあたしは構わないけど。猫好きだし。」
ケイに抱かれている猫の頭を撫でると耳を寝かせて目を細めた。
「そうなの?」
「昔飼ってたこともあるのよ。」
ケイがどこかほっとした顔をしていた。
世話は全部自分ですることを条件に許可したものだからあたしが猫嫌いなのかと思いこんでいたのかもしれない。
「何て名前だったの?」
「シロ。」
「優子さん昔からネーミングセンスないね。」
「どういう意味よ。」
ケイが苦笑いをしている。
最近、ケイの表情が豊かになって、口数が増えてきた気がする。可愛くないことしか言わないけれど。
「兄貴の名前だよ。」
「優斗?」
「そ。父親と一緒じゃん。」
あたしは「優子」で、現在単身赴任中のユウの父親は「裕斗」。どちらも「ゆう」だし、それぞれの漢字を取って「優斗」と名付けたのだった。
「あんたがそんなこと言うならナポレオンにでも改名してやろうかしら。」
「やめてよ。」
あたしの食べ終えた皿を持ってケイが流しのほうに引き返していった。
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