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「今度焼き肉でもやろうかと思うんだけど、あんたいらないの」なんて言われたら乗らないわけにもいかなくて。
「先に選んでいいよ。」
どこか余裕たっぷりに言う弟。
線香花火を真剣に選ぶことなんてないと思っていた。
バラバラになっている線香花火を見ても全部同じにしか見えないから真っ先に目についたやつを一本選んだ。
俺が一本取った後、横から弟の手が伸びてきて一本持っていった。
黒い瞳でじっと一本の線を見つめ、先端を確かめるように触っている。まるで品定めでもしているかのようだった。
最初に弟が火を付け、次に俺が火を灯した。
弟の方が先に火を付けたため、先端に火の玉ができて火花を散らすは弟の方が先だった。
線香花火は、人の人生のようだと言う。
点火と共にできる、火の玉。これは蕾という状態で、命の誕生を彷彿とさせる。
やがて火の玉からパチ、パチ、と火花が散り始める。これは若かりし青年期。この段階を牡丹という。
がむしゃらな人生を顕わしているかのように、激しく火花を散らすこの段階は松葉というらしい。松葉を経て、やがて穏やかな終焉へと向かってゆく。散り菊という名にふさわしい哀愁が漂う。
「あ!」
まるで火のシャワーみたいに勢いよくパチパチ燃えた後、火の玉が小さくなりぶるぶる震え、力尽きたかのようにボトッと足元に落下した。
弟の線香花火は依然小さい火の玉がぶるぶる震えながら力ない火花を散らしていた。
やがて火花が散らなくなり、徐々に火の玉が小さくなり、落ちることなく消えた。
「すっげー。こんな長く持ってるの初めて見た。」
「ちょっとしたコツがあるんだよ。」
勝負のことなんか忘れて感動した。
派手じゃないし、華もない線香花火。
花火をやるときのシメはいつもこれで、寂しさと、充実感の余韻に浸っていた。
昔は何とも言えないこのしみったれた雰囲気を好きと思えなかったけれど大人になった今、しばらくこの余韻に浸っていたいと思う。
「兄貴。」
弟の持つ完全に火が消えた先端を感慨深く眺めてどれくらい経ったのだろう。
弟に呼ばれて顔を上げるとゆっくりゆっくり弟の綺麗な顔が近づいてきていた。
「ッ、待った。今するの!?」
弟が顔の角度を変えて、あと少しで触れそうというあたりで咄嗟に手で遮る。
「どうせ暗くて見えないよ。」
俺の考えていたことが弟には分かったようだ。
すぐ近くには建太くんがいて、そのお母さんがいる。
チラッと盗み見ると花火で夢中になっていた。
確かに暗いし、さっきまで額をつき合わせるようにして花火していたのだ。不自然には見えないかもしれない。
弟の手が俺の手を退かし、柔らかい唇が俺のに重なった。
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