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キッチンから香ばしい匂いが漂ってくる。
毎週アパートに通う弟に本を俺の部屋の本棚に置くよう頼む時がある。テレビも面白い番組がないし、自分の部屋へ行って本でも持ってこようかと思ったが一度こたつに入ってしまうと出るのが億劫だ。
適当にチャンネルを回しながら次々にみかんを消費してゆく。ごみ箱が遠かったせいで机の上にみかんの皮が山を作った。すぐ近くでは猫が蹲り目を閉じていた。
このこたつは猫の為に出したのだろうか。この家においてこたつで暖を取るのは俺くらいで、おふくろは暖房と電気カーペットで部屋ごと暖めるタイプでこたつに入っている姿を見かけたことはない。弟は俺が入っていれば来るけれど率先して利用していることはない。暖房を付けることをせずに厚着をして寒さをしのいでいた。
だが昨年末帰ってきた時にはこたつは出ていたはず。猫を飼い始めたのは少し前だから猫の為というわけではなさそうだ。弟にとってこたつを出すことが恒例行事となっているからなのか、それとも。
「うわ、ごみくらいちゃんと捨てろよ。」
黒の飾り気のないエプロンを身に付けた弟が両手にお椀と箸を持って来た。
「卵混ぜといて。シメは雑炊でいいよな?」
「ん。」
目の前に置かれたお椀の中には生卵が1つずつ入っていた。みかんの皮を捨て、ごみ箱を俺の近くに置いてから弟は再びキッチンへ消えていった。
つい先程まで冷蔵庫に入っていたであろう冷たい卵を手に取ると、手の熱を奪われていくようだった。こたつテーブルの角に打ちつけ、中身をお椀の中に空ける。カセットコンロを手にした弟が戻ってきた。
「あんた何やってるの。」
卵を割るなんてしばらくぶりだ。力加減を間違えて殻が入ってしまった。
「手洗ってきなよ。」
こたつから出たくない、などと言っている場合ではない。手がべとべとしていて気持ち悪い。
冷たい水で手を洗って戻ると、カセットコンロの上には鍋が置かれていい匂いをさせていた。空だったお椀の中には卵が綺麗に割られていて、俺が失敗したお椀は弟が箸で殻を取り除いている最中だった。俺がそっち使う、と言ったらいいからそれ混ぜて、と言われたので素直に従う。
「いつもありがとな。」
黄身をつぶし白身と混ぜながら言うと弟の手が止まりお椀から俺の顔に視線が移った。きょとんとした表情を浮かべ、しばらくしてから一言。
「どうしたの、急に。」
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