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鍋の中身が空になると弟はすぐに片付けに取りかかった。猫を膝から下ろし、鍋を持ってキッチンへ消えてゆく。
弟の膝の上で眠っていた猫は何が起こったか分からない、といったような様子で弟の背中を見つめていた。弟は忙しなく居間とキッチンを往復し、そのたびに短く不格好な尻尾を立てたりねかせたりしていた。こたつの上を全て片付け、弟が戻って来なくてもずっとドアの方を見つめていた。
猫が突然俺を振り返った。
「えっ、ちょっと…。」
黒猫が尻尾を下げたままゆっくり俺に近づいてきて、胡坐を掻いている太ももに前足を掛けた。
「っひ!!ちょ、啓太!!けーた!!」
そのまま軽やかな動きで俺の膝の上に乗り、布団の上から股の間に蹲った。猫が動くたび重みが動いてくすぐったい。
「ゆうた、俺は啓太じゃない!!」
「…何やってんの?」
呆れ顔の弟が姿を現した。
「猫が!!猫が!!」
どうすることもできず弟に助けを乞う。歩み寄り、俺の膝の上を覗き込んだ。
「ひぃぃ!」
弟の両手が猫の脇の下に入り込み、上に引っ張ると猫が抵抗するようにこたつ布団に爪を立てて、バリバリ糸が切れる音がした。
変な声を上げた俺が馬鹿みたいだ。何事もなかったかのように腕の中へ収め、二階へ上がっていった。
それからしばらくして後片付けを済ませた弟が部屋へ戻ってきた。
座ってみかんを食う俺の背後に回り込み、無言で抱きしめられた。服の上からでも分かるくらい弟の身体は冷え切っていた。啓太もこたつに入ればいいのに、と思いながらみかんを口に放り込んでは咀嚼して、また一房口に入れては咀嚼してテレビを見ながら黙々と食べ続けた。
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