アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
13ページ目 3
-
弟は元々口数が少ないから機嫌がよくても悪くてもあまり変わらない。だが、空気がピリピリしていて居心地悪い。
「なんでそんなに怒ってる?」
シャワーを浴び、ベッドの縁に腰掛けて頭を拭いている弟の背中に話しかけた。
いつも急に機嫌が悪くなり、いつの間にか直っている。現在は日曜日の夜。だいたい放っておいてもその日のうちには話しかけてくるのだが、今回はしつこい。
何故弟が機嫌を損ねたのか不明な時が殆どなのだが今回は原因がはっきりしている。金曜日、内田さんに引き合わせたことだろう。
「あんた、あれの中身知ってるの?」
「え…。」
弟が手を後ろに付きこちらを振り返った。鋭い眼、抑揚のない声。質問が質問で返ってくるとは思わずたじたじになった。
「いや…わかんない。」
正直に答えると俺を睨んでいた弟が表情を崩し、大きく息を吐いた。
「チョコレートだよ。」
呆れたように弟が口を開く。
「今日は何の日だと思う?」
「…あ。」
そう言われて、ようやく気付いた。
「やっぱり気付いてなかったのか。」
「バレンタイン、まだ先だと思ってたよ。」
弟がベッドの上に足を乗せ、俺と向き合うように横になった。デカイ弟に、肩まで布団を掛けてやる。
「散々テレビでやってたじゃん。」
呆れ顔。よかった、機嫌は直ったみたい。
「ごめん、啓太。」
「もういいよ。」
まだ完全に乾いていないのか、髪が冷たかった。湯冷めしてしまったようで身体が冷えきっていたから、弟の背中に腕を回して身体を密着させる。小さい頃の弟は身体が強い方ではなかったから少し心配だ。
「それにしても、内田さんがお前に気があるとは思わなかった。」
「あんたに、だよ。鈍感。」
わざわざお前呼んで手渡してたんだからお前にだろ、と言うと、弟が彼女は自分に気遣ったんだと解説した。
「だって彼女は俺達が付き合ってるのを知ってる。」
「…ん。そうだね。」
今思えば、彼女に弟を好きだと打ち明けたのも、付き合うことを宣言したのも同じ場所だった。弟の黒い瞳が真っ直ぐに俺を見据える。
「あ!そうだ。啓太、ちょっとごめん。」
あることを思い出し、弟を跨いでベッドを下りた。炊飯器の横に置いてあるかごの中からチョコレート菓子を持って弟の元へ戻る。
「はい、これお前にやるよ。」
安売りしていたのはバレンタインが近いためだったのか。この間コンビニに寄った時、たまたま購入したものが残っていた。恥ずかしいことも平気で言う弟が目を丸くし、目を泳がせた。
「ありがとう…。」
手を伸ばし、箱の端を掴む弟は耳まで真っ赤になっていた。
「で、お前からはないの?」
弟の反応が面白い。一年中どこのコンビニでも、スーパーでも手に入る菓子の箱をじっと眺めていた弟が弾かれたように顔を上げた。何か言いたそうに口をパクパクさせてから菓子の箱を抱きしめ、顔を反らせた。
「今日の夕飯、何だった?」
「え?」
「寝る。」
俺があまり好きじゃないから滅多に食卓に上がることはないが、今日の夕飯は珍しくカレーだった。俺に背を向けるようにして横になり、板チョコを抱いたまま深く布団を被った。
「あれ?もしかして入ってた?」
「………。」
「美味かったよ。ごちそうさま。」
部屋の明かりを消し、弟の隣で目を閉じた。
・ ・ ・ ・ ・
社家の2月14日は毎年カレーです。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
196 / 228