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15ページ目 弟side
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この春、俺は高校3年生に、兄貴は新社会人として新しい生活が始まった。
「おい、兄貴!!兄貴、起きないと遅刻する!」
揺す振り起こされ、舌打ちをしながらのっそり身体を起こした兄貴が枕元においてあるスマホに手を伸ばす。
「わッ、やべぇ!!何でもっと早く起こしてくれなかったの!」
「何回も起こしたよ!!起きなかったのはあんただろ!」
口論する間も惜しい兄貴はベッドを飛び出した。
「おにぎり作ったから朝飯に持ってって。」
「ありがと。」
兄貴が歯を磨いている間に中途半端に着られているワイシャツのボタンを留め、ネクタイを締めてやる。スーツ姿の兄貴を見るのは連続5日目だけど普段のラフな格好を見慣れているせいで違和感しかない。
決して似合っていないわけではないのだけれど急に大人っぽく見えて、一気に距離が離れてしまったかのような焦燥感を覚える。
身長が追いついた時、ようやく同じ目線で物事が見れると思っていた。
だが、5歳の年齢差は決して埋まるものではない。兄貴はとっくに成人を果たしていて、俺はまだ子供なのだ。改めて思い知らされた。
「行って来る!」
「兄貴、携帯!!」
ピカピカの革靴に足を突っ込み、踵を踏みつけたまま今にも出て行こうとする兄貴を呼び止める。まだ入社したてだというのに、この調子だと先が思いやられる。
「やべ、ありがと!」
俺の手からひったくるようにしてポケットにねじ込み、俺に背を向けて玄関のドアに手を掛けた兄貴が突然こちらを振り返った。俺の唇に兄貴のそれを押し当てて「いってきます」の言葉を残してドアの向こう側に消えていった。
「…いってらっしゃい。」
階段を駆け下りる音が遠ざかっていくのを聞きながら誰も居ない鉄の扉に返事をした。
元々兄貴が暮らしていた場所は学生用のアパートだったから、引越しの準備に駆り出されてもう今日で終わる春休みを忙しく過ごした。
まだ、荷物の開封作業が済んでいない。誰も居ない部屋に戻ると未開封のダンボールがいくつも積まれ、そこかしこに物が散乱していてうんざりする。洗濯物を干してから作業途中だったダンボールに手をつけた。
新居は元々兄貴が暮らしていた場所からそう遠くない。部屋の広さも家賃も前に住んでいたところと大差ない。トイレと風呂が別になった分、いくらか広くなったのだと思う。
ここはペット入居可の物件で、俺が見つけた場所だった。来年高校を卒業したら飼い猫を連れてここに移り住むことになっている。
時計の秒針だけが聞こえる部屋に聞き慣れた雑音が混じり込んだ。卒業祝いとして優子さんに買ってもらった、兄貴の車のエンジン音。かなり物を処分したはずなのになかなか進まなくて、いつの間にか兄貴が帰ってくる時間になっていた。
静かな空間に音楽が鳴り響いた。兄貴からの着信だった。
「兄貴?」
「けーた、戸締りして降りてきて。」
それのみを告げられ、すぐに電話は切られた。いつもなら仕事が終わった時点で電話をくれるのに。何かあったのかと、言われたとおり戸締りをしてから急いで兄貴の元へ向かった。
「何?」
「乗って。」
運転席側に行くとそう言われ、前を回って助手席に乗り込んだ。
「何食べたい?」
「…は?」
シートベルトをしようとしていた手が止まった。そう言えば、昨日の夕飯の時にも同じことを聞かれた。
「今日お前の誕生日。」
「あ…。」
4月5日。春休み最終日にして俺の誕生日。引越しの準備に課題にテスト勉強に慌しくてすっかり忘れていた。
「いつもお世話になってるから。何でも食わせてやるし、好きなもの買ってやるよ?」
兄貴の誕生日は7月27日。正確には4歳と3ヶ月22日差。今日から3ヶ月と22日の間だけ、俺は兄貴と4歳差になれる。
「行きたい場所があるなら連れてってやるし。」
「スーパー。」
「…え。」
気味悪いくらい上機嫌だった兄貴の表情が固まった。
「米ないの忘れてた。」
「…そう。じゃあその後はどうする?」
「帰ってメシ食ってから部屋の片付け。」
「…部屋の片付けは俺がやっておくよ。だからどっか食いに行こう?な?」
「この格好で?」
ギリギリまで梱包すらしていなかった兄貴が部屋の片付けなどするわけがない。第一、兄貴はスーツだからいいにしても俺は汚いジャージ姿だ。
「ごめん、俺の思慮が足りなかった。着替えたら出掛けよう?」
どうしても兄貴は俺を外に連れ出したいようだった。俺が欲しいものは外にはないと言うのに。
「2人きりになりたいって言ってるの!…鈍感。」
目を丸くした兄貴がふっと表情を緩めた。
「…米買うの、また今度にしようか。」
「ん。」
「ケーキ買ってくればよかったな。」
「いいよ、別に。」
車を降りて兄貴と2人、雑然とした狭い部屋へ戻った。
軽い夕飯を済ませた後再開した開封作業は深夜まで及び、この日は片付けのみに費やされた。
・ ・ ・ ・ ・
ここでは兄は社会人になっておりますが、次ページ以降は作者都合で年齢操作が行われますのでご了承ください(笑)
基本設定は兄・大学4年生、弟・高校2年生です
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