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16ページ目 弟side
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勉強の片手間に見ていたドラマが終わり、テレビを消すのと同時に教科書を閉じた。
ベッドで本を読んでいた兄貴はいつの間にか寝息を立てていた。曲げた右腕を枕にこちら側を向いて、投げ出された左手の親指は本に挟まれていた。読みかけの本を取り上げると、赤い目が薄く開いた。
「…あれ、ドラマ終わったの。」
「ん。兄貴、詰めて。俺も寝る。」
兄貴が目を覚ましてくれて助かった。起こしてもなかなか起きないし、退かすのも一苦労だった。
指が挟んであったページに紐を挟み、ちゃぶ台にあるノートの上に置く。電気を消して、兄貴が空けてくれた狭い場所に横になった。
「前に水子がいるって話したじゃん。けーた、もう一人兄弟欲しかった?」
月明かりが差し込む静かな薄暗い部屋で、もう寝たと思ってた兄貴の声がやけにクリアに聞こえた。
「うちの墓、見たことあるっけ?墓石の隣にお地蔵さんが置いてあるんだよ。」
視線を低い天井から兄貴に移した。滅多に見ない、真剣な表情。
「たまに、思い出すんだよね。俺のおふくろも親父も何も言わないから弟だったのか妹だったさえも分からないんだけど。」
「兄貴はもう一人妹か弟欲しかったの?」
「ん…。そうだね、実感湧かないけど残念だったなって思うよ。」
愚問だった。そんなの、当たり前だ。分かっているのに「お前だけでいい」という答えを望んでいた。
「もう一人兄ちゃんか姉ちゃんがいても俺はあんたのことが好きだったよ。」
「ありがと、けーた。」
寂しそうな顔で笑う兄貴が見ていられなくて、反対側に寝返りを打った。
「…俺は嫌だよ。自分以外にあんたの兄弟がいるのは。」
「そっか。うちに来てくれて、俺の弟になってくれてありがとな。」
兄貴を煩わせている、生まれてこれなかった命に嫉妬している。そんな醜い俺を、兄貴は怒らずに後ろから抱きしめてくれた。
そっと兄貴の手に、自分の手を添える。もし、もう一人兄弟がいたら俺だけを抱きしめてくれることはなかっただろう。俺だけのモノになってくれなかっただろう。
兄貴の中から生まれぬ兄弟の存在がなくなることは一生ないかもしれない。
だけど、この言葉だけで充分。
「どうしたの、いきなり。」
「なんでもないよ。おやすみ。」
そう言えば夕飯の時に付けていたテレビの特集が冠婚葬祭で、墓地が映し出されたのを思い出した。背後からはすぐに規則正しい寝息が聞こえていた。
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