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暑苦しいキミ 01.
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『さーぁて今年も始まりましたああぁ!当学園毎年恒例の運動会、借り物ぉぉ競争ぉぉー!!』
季節は夏。
うだるようなこの暑さはなんだ。夏だからか。吹き出すように涌いてくる汗が体操服に張り付いて気持ちが悪い。悪すぎる。
七月下旬。
この気温、湿度、陽射し。丸一日外で運動大会をする気候だとはとても思えない。こんなん最悪のコンディションすぎるだろ。
オレは暑いのも、体を動かすのも嫌いだ。
そして極めつけ。
この放送部員の細谷のアナウンスの暑苦しさとうざさったらない。かんかん照りの陽射しと、耳をつんざくように響くスピーカー越しのあいつの声が、ダブルでオレの体力と精神力を削いでいく。
“大運動会”なんて、ましてや“借り物競争”なんて、なんだか小学生みたいでアホくさいな、と思っていた。
しかし、うちの高校では、この大運動会の借り物競争がちょっとした有名行事になっている。
二年生の時までは、このちょっと変わった借り物競争を遠くから観賞していただけだったオレも、三年生になったからにはこの競技に参加しなくてはならないわけだ。
この借り物競争は、三年生全員強制参加の行事だからな。あー…だる。
普通、借り物競争っていったら「ぬいぐるみ」とか「ハンカチ」とか、ちょっと面白いやつで「○○な先生」みたいなさ、そういうやつだと思うんだけど、うちの高校のは全部の借り物が「人間」っていう、ね。
だから例えば「好きな人」とか「尊敬する先生」とか「嫌いな人」とか書かれるのが当たり前ってわけ。ま、一番盛り上がるのはもちろん「好きな人」なんだけど。
うちは共学の高校だから、その借り物競争が『告白大会』みたいなイベントになりつつあるわけだ。
「好きな人」と書いてあるのに同性の友達を引っ張ってくるような笑いはみんな求めてなくて、つかそんな雰囲気でもない。みんなガチで好きな奴連れてきて告白する。そういう暗黙のルールがいつの間にか出来上がっていた。
『うざい奴』
あちーあちーと言ったところで、暑さが和らぐハズもなく。あっという間に自分が走る番になってしまった。
「好きな人」の紙だけは引かないようにと願いながら、スタート地点から十メートル程走ったところにある二つ折りにされた「借り物」の紙を恐る恐る開くと、『うざい奴』――そう書いてあった。とりあえず好きな人じゃなくてよかった。
「うざい奴って……あ、」
あいつしか居ない。
「細谷ぁぁぁぁー!」
グラウンドの中央にある実況席に座る細谷に向かって大声で叫び、「なになに俺?」とやたら嬉しそうに自分を指差す暑苦しいメガネ野郎に早く来いよと手招きをする。
「なーーに明クン!僕を呼んでくれるなんて」
「あ、いや、な」
「なになに何て書いてあったのさー?」
う、うざい…。具体的にいうとこのグイグイ来られる感じが。基本オレにはあまりそういう耐性がないから、「なになにっ」と体が引っ付く位に身を寄せられても対応に困るんだよ。バカ。
「…ほら」
そうやって放り投げるように紙を見せると、
「ガーン!!」
なんて、お前はリアクション芸人か!と突っ込みたくなる位の大袈裟なポーズをとる。
「とか言ってねとか言ってね明クン」
「何…つかお前もうすぐ走る番じゃねーの?」
「はっ!マジか!」
「じゃあ行ってくるわ!」と、これまたわざとらしい駆け足のポーズをとってから、細谷は颯爽と借り物競争の出演者列まで走って行った。
はー…。あいつの元気をオレにも少し分けて欲しいわ。
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