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1階男子トイレ
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トイレに閉じ込められた。
上履きを隠された日からゆるやかに僕を拒絶する行為がエスカレートしていった。机の落書き、消しかすを投げられる。そしてトイレに監禁だ。
入学してから何カ月もたって、そろそろ二年生だというのにまだこんな生活を送っている自分が情けない。
監禁というほど大層なものではなく、個室に突き飛ばされ何かでつっかえをされただけだ。出れないけど、ひどいものではない。ひどいのはそれからだ。
上から水をかけられると怯えたがその通りになった。ひどいことをする。冬だったら凍えてもおかしくないというのに。古典的ないじめパターンに辟易した。古典的だからこそ傷ついた。
漫画で見るようないじめが僕に行われているんだという認証が強くなっていく。
ここは寒い。ぬくもりがほしい。人の温かさが恋しかった。
洋式の便器のふたを下してがたがた震えていると、外から小さな声音が届いた。
「誰かいますか?」
「いっいます………」
問いかけるような言葉に小さな声で返した。
「偶然男子トイレからわいわいと出てくる生徒がいて、彼らの会話の内容が良いものとはいえなかったのでのぞいてみましたが…よかったです」
まったく、くだらないことをする人もいるものですね。ぶつぶつ言いながら僕のいる個室の前に来てドアを開いてくれた。
ぎぃと蛍光灯の明かりが隙間からのぞく。中に閉じ込められていたのが僕だと気づくと先生は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「彼方君ですか…またいじめられていたんですか」
「うっすっすみません…」
空野先生に助けられたのはこれで何回目だろう。片手では数えられない気がする。ほかの先生は僕を見ても知らんぷりを決め込む回数が多かった。先生だけは、絶対に見捨てないでいてくれた。
「ああすみません。デリカシーがなさすぎました…とりあえず出てきなさい」
促されて立ち上がったが開放されたドアから風が通り思わずくしゃみをする。すると僕の前進が水でぐしゃぐしゃになっていることに先生が眉をしかめる。目じりに皺が寄っていた。
「こんなに冷たくなって。可哀そうに…授業にはもう間に合わないだろうから理科室で休んでいきますか」
「え」
「次は理科室で授業はありませんから。コーヒーの一杯か二杯おごりますよ」
服も新しく着替えないと。予備があったかな、そんな言いだした先生に苦笑を洩らした。
拒否することなど、最初からない。
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