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指輪の秘密
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あの後 この前と同じ居酒屋へ行った。
体の熱は冷めていなかったけど
ビールを飲むとその熱がじんわりと和らいだ。
「相沢…」
そう呼びかけた時 ちょうど彼の携帯が鳴った。
画面には“陽菜”という女の人の名前が表示される。
「あ、ちょっと出てきます」
心の中で渦巻く感情を悟られないよう
いつもと変わらない声で返事をした。
席を立って外に出ていく彼の背中を
ぼんやりと眺める。
“陽菜”って…だれ?
もしかして、奥さんかな。
相沢は指輪してるし…結婚、してるよな。
じゃあなんで?
なんで僕みたいな…。
不安は知らず知らずのうちに大きくなる。
いずれ 捨てられちゃうのかな。
飽きたらサヨナラなのかな。
子供とかもいるのかな。
僕は彼を諦められるだろうか。
「…佐伯さん?」
ふと聞こえた声に顔を上げる。
「すみません、用事できちゃって…」
「いや、平気だ」
すかさず嘘をつく。
平気なんかじゃない。全然。
本当はもっと一緒にいたい。
この後のことを想像していた僕が
馬鹿みたいに思える。
「お金、置いていきます」
「今日は奢らせてくれ、この前のお礼だ」
大丈夫。何も変じゃない。
ちゃんと笑えてるはずだ。
「ありがとうございます、ご馳走様です」
律儀に頭を下げた彼を見送り お金を支払う。
すぐにでも泣きたい気分だ。
残っているぬるいビールを一気に飲み干し
ふらつく足で居酒屋を出た。
外は予報どうり土砂降りだった。
泣くには 最高の日だ。
夜の街を 傘もささずに1人で歩いた。
頬を伝うのが 涙なのか雨なのか。
それすらもわからない。
空を見上げても そこに光はなかった。
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