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思い出と距離
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「なぁ…信幸…」
それは、悪夢の始まりだった。
「ん?」
桜の花が咲き始める頃のこと。
湿った空気が僕の頬を撫で まとわりつく感触。
繋がれた右手は温かいはずなのに。
「もう、終わりにしよう」
浩之の言葉だけが 冷たく突き刺さる。
「…え?」
どうして。
どこで浩之に愛想を尽かされたのだろう。
探しても探しても 答えなんてなかった。
泥沼の中を1人で歩かされているように
足は急に重くなる。
「ま…待ってくれ。なんでだ、なんで…?」
僕は必死だった。
浩之以外、愛せる人なんていないと思った。
彼に捨てられたら
僕はどうやって生きていけばいいのだろう。
「信幸のせいじゃない…、全部 俺のせいだから」
そう言った浩之は 泣いていた。
少し前を歩く彼の肩が震え
繋がれていた手が解かれる。
あぁもう、終わりなんだ。
歩き出した浩之を引き留めることもできず
ただ 彼の背中を見つめていた。
浩之が 振り返ってくれることを信じて。
抱きしめて 嘘だと言ってくれ。
そんな願いは 叶うはずもなく。
浩之の姿が見えなくなっても
僕はただそこに立ち尽くすことしか
できなかった。
「浩之…」
名前を呼んだら 涙が溢れた。
悲しい、苦しい、好きだ、好きだ。
僕の中は彼への“好き”で 埋め尽くされていた。
この気持ちをいったいどこへ捨てればいい?
だれを愛せばいい?
**
浩之に別れを告げられて 2ヶ月後のこと。
家に届いたのは1通の招待状。
あぁ、ジューンブライドか。
その招待状を眺めながら
ふとそんなことを考える。
僕が女だったら ずっと彼の隣に入れたのだろうか。
そんな風にも思った。
その時初めて気がついた。
彼の描く未来に、僕はいないということに。
最初から わかっていたはずなのに。
こんなに胸が痛いのは
彼を愛していた印だろうか。
きっと、そうだと信じたい。
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