アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
アイのカタチ
-
別れを告げられたあの日、
暫くの間 部屋を出られなかった。
“もしかしたら 戻ってきてくれるかもしれない”
確信のない期待。
でもそれは結局 自分を傷つけるだけだった。
冷たい部屋。
外では蝉の鳴き声がするはずなのに
ひんやりとした空気が僕を包んでいる。
少し荒れたデスク。
男2人で座るには少し小さいソファ。
一緒にご飯を食べたテーブル。
相沢に全てをさらけ出したベッド。
どこを見渡しても 思い出が溢れている。
もう二度と この部屋には来れないのだろうか。
もう 相沢のご飯を食べられないのだろうか。
もう 僕に触れてくれないのだろうか。
「…ぃ…いや……、やだよ……ッ」
零した言葉は虚しく部屋に反響する。
相沢の背中を追いかけることもできない。
そんな僕は 本当に情けないと思う。
だけどこれ以上嫌われるのが、僕は怖い。
“遊び”だったと相沢は言ったけど
それでも僕は 相沢に触れられることが嬉しかった。
“遊び”だったとわかった今でも
また触れて欲しいと思ってしまう。
そんな僕を 相沢は軽蔑するだろうか。
**
部屋を出たのはそれから2時間後だった。
自宅へ帰って着替えを済ませ 会社へと向かう。
相沢と顔を合わすのは少し気が重い。
会えば“好き”が溢れてしまいそうだったから。
けれどズル休みをする訳にもいかない。
「…ぅ……」
久しぶりの満員電車は 流石に辛かった。
いつもなら早い時間の電車に乗るので
余裕があった。
押しつぶされそうになりながらも
頭の中は相沢でいっぱいだった。
相沢のことを考えていれば
3駅先の会社の最寄駅まではあっという間だった。
駅から徒歩10分。
決して大きくはない会社だけど
それなりの業績はあった。
「おはよう」
ドアを開ければ 変わらない日常が広がっている。
『おはようございま―す』
点々と聞こえるあいさつ。
まだ来ていない人もいるみたいだけど
ほとんど揃っていた。
もちろん、相沢の姿もある。
普段 誰もいない会社で仕事を始めるので
なんだか変に緊張してしまった。
僕がいない間に 仕事はかなり溜まっていた。
…今日は残業かな。
ちらりと相沢を盗み見て 元気を貰う。
別れを告げられても やっぱり
“好き” をやめられない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
34 / 420