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指先の熱
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会社を出ると少ししたところにベンチがある。
いつもは空いているそこに一人の女性が座っていた。
今は22時過ぎだ。
こんな時間まで何をしているのだろうか。
「あの…」
ボーっとそんなことを考えていると、ふと声をかけられた。
それは、ベンチに座っていた女性だった。
「ここの会社の人ですか?」
「え…、ぁ…あぁ」
にっこりと微笑んだ顔は見覚えがあった。
思い出せそうで思い出せない。
そんなもどかしさが募る。
だけど、彼女が放った一言でハッキリと思い出した。
「じゃあ…、相沢良太ってまだ仕事やってますか?」
ふわふわとした茶色の髪。
少し背が高くて、すらっと伸びた手足。
相沢の隣で、幸せそうに笑っていた子だった。
「ぁ…あの」
この子とはもうエッチはしたのだろうか。
この子に“好き”って言っているのだろうか。
この子と結婚を考えているのだろうか。
全部全部、僕には関係のないことだ。
相沢のことは僕には関係ない。
だって、もうとっくに僕たちは終わってしまっている。
だけど知りたい。
相沢のことなら、なんだって知りたい。
それがたとえ僕を傷つけたとしても、知らないよりマシだ。
「相沢とは、どういう…」
どんな答えが返ってきても きっと 、僕は後悔しない。
相沢のことが知れるなら、後悔しない。
「どうって…どうしてあなたに教えなきゃいけないんですか?」
彼女の言っていることは正しかった。
いくら同じ職場だからと言って、そんなこと教える必要はない。
でも、彼女は少し意地悪な笑みを浮かべて続けた。
「まぁ…良太は普通の恋人ですけど…ね…?」
その微笑みが、どこか相沢に似ていたからだろうか。
彼女が相沢の“恋人”だからだろうか。
相沢を“良太”と呼んだからだろうか。
乾いたはずの涙が、頬を伝う感触がした。
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