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優しさと甘え
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浴室に響く、唇が触れる音。
何度も繰り返される 啄むようなキス。
「ん…んッ…」
触れているだけなのに 頭がボーっとしてしまう。
うっすらと目を開けると、切れ長の眉と長い睫が見える。
目線を下げれば、ほのかに赤くなった頬だって。
全部、愛しいと思った。
「……信幸さん…」
キスの合間に彼が呟く、僕の名前。
あまり好きではない、自分の名前。
『必ず幸せになれるって、信じていて』
最後の最期まで、幸せになれなかった 母の願い。
そんな願いが込められた、名前。
もちろん、昔は信じていた。
いつかは幸せになれると。
でも 今は違う。
幸せなんて、信じるものじゃない。
そう気が付いたのは浩之と別れた時だった。
信じれば信じた分、裏切られた時の代償は大きい。
胸を抉られたみたいに痛くて、寂しくて。
ぽっかりと空いた穴は、いつまでも消えずに存在し続ける。
だったら信じなければいい。
それが辿り着いた答えだった。
信じなければ、二度とあんな思いはしなくて済む。
いい考えだと思った。
それ以来、僕の中で考えは一変した。
幸せなんていずれ終わりが来るものだと。
今だって、確かに幸せだ。
好きな男と、セックスをして、隣で眠ったりもして。
だれど 終わりはやってくる。
永遠なんて、あるわけがないのだから。
それでも、彼が僕の名前を呼ぶ時だけは、自分の名前が好きになれた。
低くて優しい声で、僕の名前を呼んでくれて。
それは まるで“魔法”のようだった。
その一言で、温かい気持ちになって。
その一言で、寂しくもなったりして。
その一言で、泣きそうになる時もある。
その一言で、笑顔にだってなる。
その一言で、なんでも許してしまって。
その一言で、僕が作り変えられてしまう。
たった一言、彼が僕の名前を呼ぶだけで。
どうしてこんなにも 幸せになれるのだろうか。
「……りょう…た、…良太」
僕もあなたに“魔法”をかけられたらいいのに。
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