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写真と真実
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佐伯さんが部屋を出ていった後、
ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
何も言えずに。
何も出来ずに。
ふと、頬を伝う生暖かい雫に気がついた。
その雫を拭いもせず、
伏せられた写真立てを見つめる。
「…なんで、上手くいかないんだろうな」
数時間前は、あんなに抱き合ったのに。
あんなに傍にいたのに。
あんなに名前を呼んでくれたのに。
「まぁ、…こんなもんだよな」
言葉とは裏腹に 雫はとめどなく溢れる。
重力に任せて落ちていく雫が
Tシャツに染みを作っていく。
「ふ…、…ぅ…ッ……う゛…」
崩れ落ちるように座り込み、
肩を震わせながら泣いた。
あなたと過ごした時間は、確かに幸せだった。
でも 心の片隅には、いつも彼女がいて。
ここにいるのが彼女だったら、なんて
思ったりもして。
最初は ただ寂しさを埋めるためだった。
俺のことを求めてくれる人なら 誰でも良かった。
好きになるなんて、ある筈ないと思っていた。
好きになるのが、怖かった。
あなたは、そんな俺を変えた。
あなたの“好き”が、俺を変えてくれた。
だから、あの時だって 怒るつもりじゃなかった。
ちゃんと説明すれば、あなたはわかってくれる。
あなたの優しさも、全部知ってるから。
でもあの時。
確かにあなたは 俺を疑っていた。
それで、ついカッとなってしまった。
今思えば疑うのは当たり前なんだ。
あんな写真を見て、疑わない方がおかしい。
だけどあの時は、それが怖かった。
あなたに疑われるのは怖い。
疑われて、嫌いになられたら?
もし傍にいてくれなくなったら?
俺は、あなたが怖い。
あなたが好きだから、
嫌われるのは怖い。
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