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家族
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「柚月くーん、お風呂入ろっか」
夜中に帰ってきた伊藤さんが何故か張り切りながら僕を風呂に入れたがる。
5日間風呂に入ってないから…まあ、入った方がいいんだろうけど…
「なんで一緒に入ろうとするんですか」
そう、実は昨日からお風呂アピールしてくるんだけど入ろうとする度この人も脱ぎだすから昨日は脱出した。
「照れなくていいじゃん〜柚月くんの体はもう隅々まで見ちゃったから今更だよぉ」
そういう意味じゃないと思う。うん。
だって、誰かと一緒に入る事なんて、僕の記憶にはないから…
だから…ちょっと、緊張する。
「一緒に入りたくない?」
「ちがっ…そうじゃなくて…」
そうじゃなくて…
誰かと「一緒」って僕、慣れてないから…
言葉が出てこなくてもじもじしてる僕を見てまた悲しそうな顔をしながら僕を抱きしめた。
暖かくて、もう何も考えられなくて…
こんなに人の体温を感じ取れるの…初めてで…
悲しい事なんて一つもないはずなのに
また涙が出てきちゃう。
僕、こんなに泣き虫だったのかな?
伊藤さんも、何も言わず僕の背中をポンポンってしてくれて、それが心地よくて伊藤さんの背中に腕を回した。
「伊藤さん」
「なんだい?」
「伊藤さんは…この暖かさを知ってる人なの?」
「うん。僕はお父さんとお母さんが亡くなる前いつもこの暖かさをを味わってたんだよ」
そっか…
伊藤さんのご両親はこの暖かさをこの人に与えていたんだ。
じゃあ
「今は冷たい?」
だって、このぬくもりがなくなったんでしょ?
「最初は冷たかった。でもさ、その内また暖かくなったよ」
「なくなっちゃたのに?」
「うん。両親はいなくなっちゃったけど、僕は最後まで愛されてたからね。だから、暖かいよ」
そっか…
愛されてたんだ…
愛される事を僕は知らない。
でもそれが幸せな事ってのはわかる。
僕も欲しい。
僕も愛されたい。
暖かくなりたい。
もう冷たい世界は嫌なんだ。
「僕も…」
「うん」
「僕も…いつか…暖かくなりたい」
「うん…」
しばらく伊藤さんの胸で泣いて、ようやく涙が止まってくれて、伊藤さんからすこし離れたら
「じゃ、お風呂入ろうか!」
ってさっきまでの割とシリアスな顔は消えていて、いつものヘラヘラ顔に戻っていた。
ちょっとムカついたけど、多分伊藤さんはそうやって僕を励ましてくれてるんだと思う。
伊藤さんがいてくれて本当によかった。
多分、生まれ変わったら僕は伊藤さんの子になりたいな。
この人の元にいれば幸せになれそうで。
この人なら求めなくても愛をくれそうで…
だから僕も、今だけは甘えていようと思う。
「うん…入りましょうか」
そしてその日の夜は、俊介さんを思い出さず久々にいい夢を見た気がする。
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