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同居人の胸内
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side カガリ
結局夜になってもマキノは帰って来なかった。
相当怒ってるよなあ。
それも、取り返しのつかないまでの。
東京に出ようって言い出したのは俺。
ミュージシャンになりたかった。
でも、現実はそんなに甘くない。
俺をとってくれる事務所なんてそうそうなかった。
顔も歌もいい、だけどなにか足りない。そう言われ続けた。
俺みたいなやつ、どこにでもいるんだって。
デビューしても、回りと同化するだろうって。
昼間は資金稼ぎで子ども相手にギターを教えて、夜にプロの先生の元で歌の技術を学ぶ。
でも、いつのまにか夢が重くなってきた。
どうせ叶わないのなら、早いうちに諦めよう。そう思ってしまった。
音楽教室のオーナーからは、正社員にならないかと何度か誘われていた。
そっちの方が給料も将来も固い。
実家の親にはなんて言おう。
あんな無理して飛び出してきたのに。
マキノ、事務所預かりになったって言ってた。
羨ましいって気持ちより先にほっとした。
よかったな、お前は今まで費やしてきたお金も時間も報われたなって。
ほんとは疲れてた。
夢ばっか追うことに。
この先に未来があるのかって。
寝る前にこそっと歌詞を書いて、時間あるときに作曲して。
このことがなんの意味になるんだって。
いつのまにか分からなくなってた。
これでいい。
これでいいんだ。
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