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土台作り
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「おはようございます」
俺の声優一日目は、挨拶と共に始まった。
8時10分前。
事務所の入り口には、既に真鍋さんや知らない人が集まっていた。
かなりドキドキする。
天野さんに目配せすると、笑われた。多分、自己紹介しろと言われている。
「今日からお世話になる、牧野空です。よろしくお願いします」
それを聞いて、真鍋さんの隣にいた人物が俺に握手を求めた。
すかさず手を出す俺。
「今日からマキノくんのマネージャーになる長谷川です。天野くんから、君の噂は常々聞いていました。これからよろしくね」
眼鏡で細身。頭はかなりよさそう。デキるって感じの人だ。
まだ新人。売れっ子になれば別だが、新人のうちは専属のマネージャーというわけではない。
俺以外にも担当している子はいるそう。
しかし。これからは長谷川さんが仕事の情報や俺の身辺をみて貰うことになる。
今日一日は特別、初めなので俺と一緒にいるらしい。
「朝は録音スタジオ空いてるから、今のうちにボイスサンプル撮っておこう」
真鍋さんの声で、俺らは地下へ移動した。
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ボイスサンプルで録音するセリフの書かれた紙を用意され、何度か読み返してみる。
それから、昨日考えていた台詞を真鍋さんに言うと、一発でOKを貰えた。
早速録音に入る。
まずは俺が一番得意とする元気な少年声。始めに少しシリアスさを混ぜてみる。
「お前さ、言ったよな。この手術で自分に勝つって。なら俺は次の公式戦、絶対てっぺん取ってくる。お互いがんばろーな!」
次にツッコミキャラ。これは普段の自分でもあるので、やりやすい。そして大阪弁も入れてみる。
「やからなんでそうなんねん!後でやるやるっちゅーても絶対せん!お前はそうゆうやつや。俺いっつもゆーてるやろ!はよ学習しろ!あほ!」
CM風、歌、自分の出せる演技。そういった俺の中にあるもの全てを一つ一つ録音していく。
リテイクやOKを繰り返しているうちに10分が経っただろう。天野さんは録音スタジオを後にした。
仕事に向かうらしい。
それから暫くして、俺もすべての作業が終わった。
「結構早かったね。助かるよ」
その行いにマネージャーの長谷川さんは感心していた。
真鍋さんはその光景をにこにこしながら眺めている。
「普通は一時間ほどかかるからねえ。マキノくんは急振りに強いタイプなわけだ」
次はプロフィール画像。
事務所とは別の場所にある、本格的な撮影をするためのカメラスタジオへ出向いた。
その直前、身なりを整える為に美容院と服屋に寄ったのは長谷川さんの心使い。
しっかりしている。
「撮りたいポーズはある?」
長谷川さんが聞いてくる。何も考えていなかった俺。
マネージャーいわく、それはこれからの俺に一生ついて回るイメージらしい。どうする俺。
「君は、童顔だから学生ってイメージが強いですね」
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まずはラフに斜め前を向いた、普通の写真。
次に自分を表現するのにぴったしの写真。椅子に座って本を読んでるところ。
他に椅子に座ったまま、後ろから前を見てピースしてるやつ、とか。
他にも、髪を掻いてるところとか、撮影スタジオの中の舞台にこった写真まで。花壇の前で花を摘んでるところまで。
「無垢ですね。裏表のない雰囲気を持つ被写体を撮るのは久しぶりです」
カメラマンのお兄さんがぽつりと話した。
「牧野くんは、自然体でいるのがうまい。フリなのかもしれませんがね」
見透かされているようで、ぞっとした。
ただ、俺のことをこんな短時間で深くまで理解してきた彼には驚く。だから、彼の撮影した写真はあんなにも綺麗なのだろうか。
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声優って、俳優みたいだ。
そう内心は思ってた。
あとは先輩方への挨拶まわり。
と思っていたが、今日事務所に顔を出したのは俺の事務所預かりの話を聞いた宿人先輩だけだった。
いつも通りの会話をして、今。
マネージャーの長谷川さんがこれからのスケジュール確認をして、忠告や心意気を教わる。
「仕事やオーディションの話は私から連絡します。それから、今のうちにTwitterのアカウントなどメディアを媒介にした情報発信源を作っておくといいでしょう」
さらっと話終えると、彼は俺に質問の時間をくれた。
頷く。といっても、何を聞けばいいか分からなかった。
それを見越して、彼は俺に一言告げる。
「仕事が一件、入っています」
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