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負け組
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side カガリ
目が覚めてから、俺の人生が昨日までと変わってしまったことを実感した。
今日も、定時に音楽教室へ顔を出す。
朝一で正式な社員になりますとオーナーに言うと、快く歓迎された。
本当にこの道でよかったんだろうか。心残りがないといえば嘘になる。
手続きの紙に直筆でサインをして、証明写真も渡す。オーナーは軽く社員とバイトの違いを教えてくれた。
午前9時から午後8時までと勤務時間が前より延びて、雑用業も増える。
うちの音楽教室には、小さなスタジオがあるので、たまにバンドを組んだ学生がライブや音合わせにくるらしく、機能や使い勝手も教えられた。
あとはバイトの時と同じく、学校帰りや休日に子供たちへギターを教える。
大人の生徒さんもいて、彼らは基本平日の午前に入っている。
「社員用のネームプレート出来るまで、バイトの時の使って。あと、うちの制服後で渡すね」
そんな中、開店準備をしていたバイトの社員さんがオーナーと俺のやり取りを見て、口を挟んできた。
「待って。ガリってば、ミュージシャンになるんじゃなかったの?」
同じバイトの同期で仲の良い桜子。彼女は生徒にピアノを教えていて、俺と同じタレント養成所に通っている。
といっても、俺は今月辞めるのだが。
彼女には何も返せなかった。
「今日のお前、ダサイ。それ本心か」
彼は先輩社員のアケチくん。生徒にはドラムを教えている。
俺は彼に何かとよくしてもらっていた。
普段は無口で面倒見がいいのだが、たまにキツいことも言う。損得勘定なしで正直な人。
「そろそろ足場固めないとと思って」
「俺には逃げてるように見えるけどな」
まあまあと、そこにフォローを入れてくれる後輩。
「確かに残念には思います。けど僕は、それがカガリくんの決めたことだったなら、その道もありだと思いますよ」
アキラ。普段から俺を慕ってくれて、本当にデキのいいやつ。
「どうしてなの。ガリ、全然楽しそうじゃないじゃわ。私、そんなの嫌よ。イキイキした彼が好きなのに」
その日一日は、仕事場で腫れ物扱いだった。
確かに、あの道から逃げたのは俺。
でも多分、慣れないんだ。
彼らはそんな俺を見てられない。
わかる。そんな人、今までもこの職場で沢山見てきた。養成所でも。
負け組。
そんなの分かってる。
けどいつかは慣れる、そう思った。
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