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記者との体面
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部屋に入ると、女性記者が待機していた。
彼女の姿を確認すると同時に、ゼネラルマネージャーの真鍋さんが口を開く。
「暫くぶりだね明美(あけみ)ちゃん。今日はうちの子よろしく頼むよ」
明美と呼ばれた人は、ご無沙汰していますと頭を下げた。そして直ぐに俺に向き直る。
「初めまして、アニメコミティアの佐野明美です」
俺もすかさず挨拶をする。
「牧野空です。初めまして」
カチカチのまま、握手をすると、俺の肩に手をぽんと置く彼女。
「リラックスしていいのよ。今はカメラが回ってるわけじゃないしね」
案外姉肌の佐野さん。
俺も少し通常運転に近づいた。
でも、と俺の不安を誘うことを言い出す彼女。
「音声は録音しててもいいかしら」
ちらっと真鍋さんを見ると、にこっと笑った。
「了承」の合図だ。
俺と真鍋さんが席につくと、向かいに佐野さんが座る。
マネージャーの長谷川さんは座らずに、扉の近くで立っている。
「ところでマキノくん、今私達出版社の中は貴方の話題で持ちきりなの。どうしてか分かるかしら」
予想にしていなかった質問。
知るかよ。むしろなんでだよ。
「この時期に事務所預かりになったから、ですか?」
疑問系で返してしまった俺。なんか情けない。
首をふる彼女。勿体付ける。
「それもあるんだけどね」
左隣に座る真鍋さんをちらっと見ると、還暦のある笑みを返された。
この人、知ってて黙ってるんだ。
「心当たりがないです」
苦し紛れの俺の声。
にこっと笑って、佐野さんは答えた。
「あの天野夏樹が気に入ってるのよ。マキノくんは知らないかもしれないけど、彼がこんなに他の声優さんと話しているのはかなり珍しいことなの」
本題が逸れたわね、と話を戻す彼女。
これからは質問の嵐だ。
「どうして声優に?」
やばい。
さっきあれほどいい感じの答えを考えていたのに、頭が真っ白だ。
自然と口がつってくる。
こういうときに限って、カガリのことを思い出す。
「友人に誘われたんです。そいつはミュージシャンで、俺は声優。でっかい舞台で共演しようぜ!って」
違う違う違う。
いや全く違う。事務所が用意した言葉と全く違う。
でも、そこに佐野さんは興味を示した。
「お友だちは今どうしてるの?」
無言になる俺。
空気を読んでくれたのか、彼女は質問を変えてきた。
「憧れの声優とかはいるの?」
ここは分かる。事務所が用意した言葉。というか、かなりいい逃げ道。
「秘密です。知られた後でもしアフレコ現場で被ったら、恥ずかしくて顔合わせられません」
「やっぱり、kプロはガード固いなあ。趣味とか特技は?」
__________
_______
_____
あれから延々質問を繰り返され、詳細に記録していく彼女。
こってり絞られた気分。
最後にはケータイで俺にまつわる動画も撮られた。
どこまで念入りなんだよ。
質問攻めの嵐は1時間まるまる使われた。
相手の目を見ることに集中していた俺だが、いつのまにか自分はどこを見ているのか分からなくなり、焦点も合わなくなった。多分これは、慣れないことをしたせい。
集中力が切れると、人間ってこうなる。
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