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バイトが終わると、天野さんが待っていた。
「お疲れ様」
ここ暫くはこれが日常化している。
けれど、俺は慣れなかった。彼と自分は同じ職についている限り対等な関係ではないことを実感していたから。
「マキノくんのマネから聞いたよ、主役オーディション受かったって」
おめでと、と笑顔で言う彼。
ちょっと待て、俺の回りは口の軽いやつばっかりなのか!
情報流通禁止の規則はどこいった。
でも、嬉しくないわけではない。
素直にありがとうと伝える。
「今日バイト先の先輩声優さんが言ってたんですけど、ワンクールごとに仕事が無くなるのが辛いって」
笑う彼。
「確かにねえ。新人は特に怖いかも。特にマキノくんとかは」
冗談半分だとは思うが、言っていることは分からなくもない。
年々増え続ける声優。仕事が減っても可笑しくない。
「天野さんもオーディションは受けてるんですか?」
当たり前の質問。
ただ、俺にとって彼は結構未知が多い。オファーとか、来てるんじゃないだろうか。
「もちろん。けど監督から直接頼まれることもあるかなー」
すげえ。
信頼されてるんだ。
あ。そうだ!
と長財布を取り出す彼。
「これ、マキノくんのね。開け方もう覚えた?」
カードキーを俺の手に乗っけてきた。
明日からは勝手に帰れってことか。
まあ流石に毎日迎えに来るのも、大変だろうし。
頷く俺。
他に先輩らしく色々とアドバイスをくれる彼。
「Twitterのアカウント作った?」
でた、その質問。
マネージャーに言われた日に一応は作った。
「はい、事務所にも伝えました。でもまだフォロワー数、一桁なんです」
どわっと笑いだす天野さん。
「笑わないで下さいよー。これ結構寂しいんですから」
「だって、面白くて...!これから増えるよ」
フォローは入れるが、なかなか笑いの止まらない彼。言うんじゃなかった。
「フォローしとくね」
その言葉を聞くまでは。
「SNSを使用する際のkプロのルールブック読んだ?」
「すいません、まだ読んでないです」
でた。
あの、やたら長い説明書。教科書くらい分厚いやつ。
SNSに限らず、マナーとか振る舞いとか、業界用語までびっしり書かれてる。
絶対に読め、とか言われたけどほとんどの人は読んでないと思ってた。
「あれは読んどいた方がいいよー。でないと干されるから」
さらっとすごいことを言う天野さん。
干されるって、立場を追いやられるって解釈でいいのよね。
「まあ、簡単に言うとDMは禁止。それと元々使ってるアカウントは鍵垢にするか消すこと」
「消す?!」
「うん、個人情報がほとんどバレちゃうからねー。それから、自分で撮った写真または書いたものしか載せたら駄目ってとこかなー」
「了解です」
なんか徹底してるところに驚いた。
そりゃそうか。
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