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ラジオON
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「録音5秒前、4,3,2・・・」
___1は心の中でカウントする。
先ほどまでの騒音が嘘のように辺りが静寂に包まれる。
大丈夫。念入りに打ち合わせはした。
いつも通り、いつも通り。
天野さんがさっきこそっと、教えてくれた。
『役者は謙虚に、だよ』
【ON RECORD】
「こんばんは、パーソナリティの牧野空です。ラジオ『Libra』、今週から始まります」
多分、ほかの声優さんのラジオに比べたら、変声期前の俺の声はまだガキって感じなのかもしれない。
俺の向かいに座っている天野さんが、にこっと笑っている。ふっと肩の荷がおりた。
いつもながら俺のこと気遣ってくれてるんだろうな。
「この物語は、一年中雲に覆われた世界で火を祭る神殿に勤める見習い神官たちの、成長と助け合い・・・・」
・・・・。
成長と助け合いがどうなるんだっけ。
これはまずい。
出てこない。
でも無言になるのはもっとまずい・・・。
「つまり、14歳の見習い神官エクトが太陽のない世界でめっちゃ失敗して、めっちゃ友達を大事にして、成長していく話です」
・・・。
だめだ・・・。
語彙力なさすぎて、泣けてくる
目の前で、声を上げて笑う天野さん。
「すいません・・・」
「いいじゃん。マキノくんらしよ、その説明」
やっぱり彼の声は俺を安心させてくれる。
そういや、今までずっと憧れだった人が今目の前にいるんだよな・・・。
でもこんな失態。面目ない・・・。
「いつもながらフォローありがとうございます。ほんっと感謝してます」
「んじゃ、僕勝手に入ってきちゃったけど、あとはトークテーマに沿って進行よろしくね」
大丈夫とクチバクで伝えてくる彼。
「ああああ、天野さん、リスナーの皆さんすいません!ほんとは、この後に天野さんを俺が呼ぶ予定だったんです」
---
「うちの牧野、これでよろしいのでしょうか・・・」
音響室にて。
「大丈夫ですよ長谷川さん」
「このラジオを初期から聞いてくれる人は、大半が原作ファンか夏樹くんのファンの子でね。その点、空くんは原作のエクトくんと性格がとても似ています。夏樹くんの優しさも上手く引き出してくれてますしね」
「そういえば、私も天野とは5年の付き合いなのですがね・・・。彼が影なしに笑っているところを見るのは初めてです」
「私も開始5秒でリスナーさんに謝った子を私は初めて見ました」
ははは、と音響室では年季のかかった笑いがこだました。
---
「最初はキャラ紹介ですね。俺、先言います」
__________
______
___
最後のトークテーマ。
先ほど見た手紙を読み上げる。
「マキノくんは、赤の神官しかないね」
「え!?俺、赤ですか・・・!?」
ちょっと待て!打ち合わせと違う!彼なりの俺に対する試練なのだろうか。
俺の反応を受けて喜ぶ彼。
「じゃあ、もしマキノくんの親友が疫病の病原を持ってたとして、彼は1000人にそれをうつせば治るという状況でね。親友1人か知らない人1000人だったらどっちを助ける?」
これも想定してなかった質問。でも、知ってる。これは一度家で天野さんに聞かれたことがある。
「無理かもしれないけど、俺は1001人助けたいです」
「なら赤だね」
「なんでそうなるんですか・・・!」
あっけらかんとした表情の天野さん。
多分このタイミングで、俺も彼に対することを言えばいいのかもしれない。
「俺、天野さんは白だと思います」
「ほんとに!」
「なんていうか、こう未来を見据えてる・・・といか。不思議な雰囲気があるというか。とにかく白です!」
そろそろ時間だよ、と彼は腕時計を指さす。
「えっと、そろそろ時間ですね。天野さん今日はほんとにお世話になりました」
「僕も。マキノくんは型にハマらないトークするから、楽しかったよ」
「・・・!天野さん、その笑みほんっと好きです!」
「僕も、マキノくんの反応好きだよ」
空気を読んで返事をくれたんだと思う。恥ずかしくなった。
「あ・・・!すいません」
監督が俺に目くばせする。
「次回のゲストは、ポデ役宿人旬さんです」
『また!』
【OFF RECORD】
肩を落として、深呼吸。
まさか、一日でこんなに失態を犯す日が来るとは思わなかった。
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