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演技の悩み
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長谷川さんから今回のオファーの話を聞いて、以降ずっと男性同士の恋愛について研究している。
ボーイズラブの2クールアニメを2本、先輩の演じているボイスドラマを5本拝見した。
ここまで来ると、客観的にだが「BL」というものが何か分かってくる。
男女の恋愛と同じなんだってこと。
それがただ相手が同性というだけで、その他はかなり純粋。
自分自身、今まで見たどの恋愛アニメよりも楽しめた。
規制があまりかかってない分、冷や冷やはしたが。
____問題は、だ。
今まで練習してきたアニメの演技と恋の演技は全く別物だということ。
加えて、全て音声のみ。
目線を下げたり、好きだって気付いた瞬間とその後の微妙な演じ分けをどうやって表せばいいのか分からない。かなり高度な技だと思う。
俺、出来んのかな。
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「次、マキノん番だぞ」
アニメ「黒い砂漠-recent memory-」のレコーディング中、隣に座った友人が腹をこついてきた。
「さんきゅ、ワタル」
音を立てずにすっとマイク前に移動する。
左隣で声を吹き込んでいるベテラン声優さんたち。
目の前には、完成していないアニメ動画が無音で流れている。
現実とは全く違う、異国の冒険物語。
主人公ハル=グレイスを演じるのは、養成所時代からの付き合いであるワタルだ。
世界は2つの王都に分けられている。
魔術の発達した西のヨーグレンス、科学の発達した東のリベルテ。
その中間には、国を東西へと分離させる広い砂漠がある。
かつて、そこでは大きな戦争が起きた。対立する2大勢力は、お互いの技術の促進のために、砂漠に存在する希少な資源、ハーベルの岩__別名「賢者の石」と呼ばれる原資を求めたからだ。
時がたち、西の者はその大地を-黒い砂漠-と呼ぶようになる。
また東では、戦で流れた戦士の血をもって-赤い砂漠-と言われることになった。
東の若き考古学者ハルは、あるときハーベルの岩を研究しに砂漠へと訪れる。
そこで彼は、神殿を調査中に誤って地下に落ちてしまう。そこで、ハルは神殿を守る妖精と出会い、この世界が出来た理由を知っていく・・・。
今は場面が変わり主人公は登場していない。
2つある王都のうち、科学技術の発達したリベルテで13人の実力者が集まり円卓会議が開かれていた。
技術最高顧問のリ・ララブ・エルが口を開く。
「私たちの現場では、ナンバー107の開発が進んでいます」
「と、いいますと・・・?」
他の老人が相槌を入れる。
「空を・・・、飛びたいなと思っております」
「なんと・・・!」
「リ・ララブ・エル公はついに可笑しくなったか」
どよめしが上がる。口々に言いたいことを申し出る。
そりゃそうだ、今までそんな代物聞いたことない。
今の科学じゃ、空を飛ぶなんて馬鹿げてる。
「確かに、現段階の最先端技術を持ってしても、物質がそれに耐えきることは不可能です」
円卓会議が、しんとなる。
それを待ち、リ・ララブ・エル公は低い声で、そしてゆっくりと言葉を吐き出した。
「貴方方もご存じのように、1千年前、この国にはその技術が存在した。私たちの研究結果では、それはある物質を用いることで可能なのですよ」
ゴクリと唾を呑む音が聞こえる。
「『賢者の石』がね」
俺は、そのうちの一人、諜報代表(スパイ)のカイ。
この言葉を待っていた。
賢者の石。別名ハーベルの岩は、30年前に起きた戦争の原因でもある。長く苦しい戦争ののち、全ては掘り尽くされてしまったと歴史では教わる。
____が。
朝一でゲットした貴重な情報がある。それを彼らに伝達するのが俺の役目。
「そのことについて、吉報です。王都研究所に勤める考古学者のハル=グレイスがハーベルの岩と関係のある何者かと接触した可能性があります」
序盤はモブのスパイ要員カイだが、後々主人公と行動を共にするうちの一人になる。
ワタルと同じ現場は、今までに一つもなかったので、かなり嬉しい。
・・・・・・はずなのだが、いざ自分の役目が終わると途端に先ほどまでの悩みが思い起こされる。
1週間後に控えてるボーイズラブの収録、俺演技できるのだろうか・・・と。
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