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夜中の訪問者
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シャワーから出て浴室で着替えていると、外から2人の話声が聞こえた。
1人は天野さんの声。もう1つは、仕事人マネージャーの長谷川さん。
多分内容は今日の昼のことだろう。それしかない。
脚が震える。
普通に立っていられない。
おかしいな。今になって、どうして。
浴室の扉にへたり込む。
声優ってなるのが全てじゃなくて。実際、なれてもそこから先がまだあって。
仕事の中で色んなことを考える。
俺の勝ち取った役にはバックに何人も控えてて、何年も仕事がなくて辞めていった声優達。
演者同士の裏側での付き合いとか、監督との演出のぶつかり合い。
下から抜かれる新人への恐怖心。
今までその疑問や感情を抑えてこれたのは、ライバルのワタルや天野さん、海さんや陸さん達のお陰だった。
だけど。
負の感情をあんなに間近に目撃して、怖かった。
俺は今までの自分が恵まれていたんだと知った。
『牧野くん宛の脅迫は、1週間前から続いていました』
マネージャーがぽつり、ぽつりと話す声が聞こえる。
『本人には伝えていなかったんですね』
天野さんが深刻な声で相槌を打つ。
『私の不手際です。まさかこんな事態になるとは想像もしていませんでした』
『それは僕も同じです。僕へのファンレターの中に、マキノくんと付き合うなとの文章がありましたから』
こんなに周りは自分に配慮をしていてくれたのかと初めて知った。
『それで、これからのことですが____』
背中を丸めて耳を塞ぐ。小さい時から辛い時はこうする癖があった。
聞きたくない。その先を知るのが酷く怖い。
天野さんと距離を取ったほうがいい。この件に彼を巻き込んではいけない。
俺はそう思った。そう言われるのが怖くて耳を塞いだ。
_______
_____
暫くして、浴室の扉が開かれた。
とっさのことで、思い切り態勢を崩して地面に突っ伏してしまった。
何時間ここにいただろう。分からない。
けれど、2人の話が終わったことだけは理解できた。
「マキノくん!大丈夫!?」
「大丈夫です。すいません」
それを聞いた天野さんは、一瞬動きが止まり、驚いた顔をして言葉を続けた。
「マキノくん、泣いてる」
自分でも気付かなかった。
今はただ顔を見られるのも、心配されるのも、全てが辛かった。
「ごめんね、僕が不甲斐ないばかりに」
なんで天野さんが謝るの。問題は俺の方にあるのに。
「怖かったよね。もう大丈夫だから」
そう言うと、彼は優しく頭を撫でてくれた。
どうしてこんなに温かいのだろう。
今までの疲れが全部出るように、涙がどっと溢れた。
「今晩だけ、一緒にいてくれませんか」
震える声で彼にすがった。
これから先、どんな顔していけばいいのか。
彼はその言葉を柔らかく包んで答える。
「うん。ずっと側にいるからね」
今はその安心感だけが頼りだった。
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