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日常の中の
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夜。
家に帰ると天野さんが居間でアフレコ用の台本をチェックしていた。
澄んだ綺麗な声。
仕事に集中している時の彼はいつも真っ直ぐで、尊敬する。
俺は一旦部屋に荷物を置いて、台本を持って戻ってきた。明日はワタルと同じアフレコ収録。『黒の砂漠』だ。
向かいのソファに腰掛ける。
台本を開いてまずチェックするのはキャスト欄。
たまにメインの役に加えて知らない間に名前のないキャラの声を任されていることがある為、必ず確認する。
_____案の定、あった。
【男の子A:牧野空】
他にも、当日にいきなり振られることがある為、セリフは全て確認しておかなければならない。
ふと、昨日のことを思い出した。
『アニメは声優だけが作ってるんじゃない』
あれ以来、台本に重みを感じるようになった。
俺ら声優は、与えられたキャラクターの一番の理解者であると同時に、作品を作る工程での飾りとなる部分なのだ。その土台を作るアニメーターや作画、監督、音響の人々に敬意を持って仕事をしなければならない。
今までは選ばれるだけが全てだと思っていたが、実際監督が欲しがっているのは一緒になって作っていける人なのではないだろうか。
台本から顔を上げると、天野さんと目があった。
一瞬どきっとしてしまう。
彼はにこりと笑った。
「人前に立ってみて、どうだった?」
彼には事前に今日のことを話している。
「……凄く緊張しました」
こんなこと言ったら、ワタルだったら「小学生みたいな感想だな。」って言い返してくるに違いない。でも、天野さんは優しく話を続けてくれる。
「僕も初めてのイベントは緊張したかな。でも、ファンの子達は皆優しいからさ、安心していいと思うよ」
そうだ。イベントに来ている人はみんな作品に対して好意を持っているから来るのだ。
少しほっとした。失敗を恐れている自分が、筋違いなように思えたから。
そういえば、と天野さんが会津を打った。
「宿人くんのお祝いパーティーは着々と準備できてるの?」
バイト先を辞める彼を、バーの皆と、それから関係者で祝うのだ。
今のところ、kプロでお世話になっている先生方やアニメの監督、宿人先輩と仲の良い声優さん達に声をかけて回っている。
そういえば。海さんや陸さんにも知らせておかないと。
「いつが予定だったっけ?」
手帳を開く天野さん。
「1週間後の日曜日です」
俺が言うと、ギシギシに埋まったスケジュールに書き込んでいく彼。
流石、名前が売れている人はこんなにも忙しいのか。
俺も仕事は多い方だが、天野さんほどじゃない。
「楽しみだね」
そう言うと、またお互いに台本へと目線を移した。
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