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オーナー、俺、先輩
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(久しぶりのバイト先です)
バーインディゴは19時に開店する。
出勤して直ぐ、黒い腰巻のエプロンを付けながらカウンターに入ると、オーナーが話しかけてきた。
「マキノちゃ〜ん。送別会の準備は順調かしら」
そう言いながら、俺の首元に後ろから腕を回してくる。こういうスキンシップは日常茶飯事。
何事も無いかのように、俺も返事をする。
「宿人先輩と関わりのある人は一通り声を掛けましたよ」
今先輩が出てる作品の監督や、声優仲間、歌手や事務所のマネージャーにも。
意外だったのは、俺が店の名前を出すと、皆が知っていたこと。
『ああインディゴね』と二つ返事で来てくれることになった人が大半だ。
「頼むわよ〜。私の可愛い旬ちゃんへの手土産なんだからっ」
オーナーが持つコネクションは広い。バイトを辞めて後も、先輩のことをそうやって影で支えてあげるんだ。
宿人先輩は、オーナーが特に可愛がっていたバイトのうちの1人だった。
彼の紹介だったから、俺にもよくしてくれている。
そういえば。
送別会で、やりたいことがある。
「オーナー。当日のことについてなんですけど…」
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「それいいわね〜。是非やりましょう」
事情を話すと、オーナーは満面の笑みで了承してくれた。
こういうとき、この人は本当に心強い。
それは陸さんと話し合って決めたこと。
「なら早速、当日来てくれる人にも連絡しておきます!」
俺がそう言うが早いか、勝手口のドアが開いた。
新宿の狭い路地裏から宿人先輩が中へ入ってくる。
「オーナー!お久しぶりでーす」
先輩とは最近養成所で会ってはいるが、バイト先で会うのはかなり久しぶりだ。
「おっ、ラストはマキノっちとシフト被ってたか〜」
「そういや先輩、今日がバイトの最終日でしたね」
確か、今日で最後のシフトの日だったと思う。
本当は1ヶ月ほど前から、仕事が忙しくてバイトに顔を出せていなかったらしいのだが、最後に一度だけ働きたいと、わざわざ都合を合わせたらしい。
「そーなのよ!ここには1年半世話になった!」
先輩はカクテルの混ぜ方も知ってる。
あれは微妙な量の違いで、味が全然変わってくる。
だからオーナーが気に入った一部の人にしか教えていない技だった。
オーナーからしたら、本当の息子のように惜しい存在なはず。
「俺、先輩の紹介でここを知ったので…凄い寂しいです」
東京に来たての俺を支えてくれていたのは、宿人先輩だった。
この人には恩が沢山ある。
……2人が仲直りして欲しい。
頭の中には、昨日の陸さんとの会話が木霊していた。
俺が出来ることはなんだってしたい。
「まーまー!俺も、客として来るしさ!」
俺の背中をバンバンと叩いてくる先輩。
それを聞いていたオーナーがすかさず言葉を挟んだ。
「あら。そのまま働いてくれてもいいのよ?」
「オーナー大好きっす!!」
こんなやり取りも、もう当分は見られないのかと思うと寂しかった。
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